おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

100年先に伝えたい日本の美味しい丼料理

「100年先に伝えたい日本の美味しい丼料理」は、次の11品の丼料理を紹介しています。

 

「親子丼」

「カツ丼」

「鰻丼」

「天津丼」

深川丼

「中華丼」

「衣笠丼」

「天丼」

「木の葉丼」

「牛丼」

ソースかつ丼

 

 古来、日本料理の食事の形式は、一つの器に一つの品を盛りつけて膳の上に器を並べるのが正式です。一つの器に二種類以上の料理を盛ることはなく、ましてご飯の上におかずを乗せることは品のない供し方とされてきました。しかし、それは高貴な人々の食事の作法であって、庶民の間では、ご飯の上に菜を乗せたり汁をかけたりすることは珍しいことではありませんでした。むしろその方が、複合的に味が混ざり合って美味しく食べることができます。

 室町時代になると、上流階級の間でもそうした料理が流行しました。ご飯の上に具材を乗せて味噌汁をかけて食べる料理です。見た目が豪華で、贅沢な味わいがありました。「芳飯」と書いて「ほうはん」読みますが、僧侶の食事である「法飯」という精進料理と同じ発音であることから、これが起源ではないかと考えられています。また中国にも、ご飯にスープをかけた「泡飯」と呼ばれる料理があり、それが日本に伝わったという説もあります。

 現在の丼料理の起源は、江戸時代の文化年間に生まれた鰻丼です。料理店から芝居小屋の観客に届けるときに、温かいご飯の間に鰻の蒲焼きを挟んで冷めないように工夫したのが始まりです。鰻の蒲焼きを「まむし」と呼ぶのは、この「間蒸し」または「飯(まま)蒸し」という製法に由来するといわれています。

 鰻丼に続いて、天丼や親子丼など次々と新しい丼料理が考案されていきましたが、共通しているのは、ご飯にかかる「つゆ」や「タレ」が渾然とした風味を生み出していることです。ご飯と具材を別々に食べるときには得られない旨さを味わうことができます。手軽に食べられて、しかも美味しい丼料理は、すっかり日本の食文化に定着しました。今では、品のない料理だという人は誰もいません。

 料理店にとっても、食器が一つで済む丼料理は利便性が高く、出前にも向いています。フタを閉じることで料理に埃も入らず、保温もできます。面白いことに、出前しないときでも、店内で提供する丼料理にフタが閉じられることがあります。厨房から運んでくるわずかな時間でも冷めないようにする配慮であり、フタを開けたときに立ち上る香りを楽しんでもらう演出なのかもしれません。

 もっとも、丼からはみ出てしまうほど大きな穴子天丼や、フタが持ち上がってしまうほど分厚いカツ丼のときは、あえてフタを閉じないこともあります。また、鉄火丼や海鮮丼やローストビーフ丼のように、熱々でない料理もフタを閉じる必要がありません。食材に合わせて自在に作れるところが丼料理の大きな魅力です。

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