「子持ち」と称される魚介類があります。
産卵期を控えて卵を持っている魚介類です。
たとえば、「子持ちシシャモ」「子持ちカレイ」
「子持ちイイダコ」「子持ちヤリイカ」などです。
卵のプチプチとした食感が大きな魅力です。
産卵期だけに限られた季節のご馳走です。
「子持ち」の魚介類はもちろんメスですから、
商品価値はメスの方が高いのが一般的です。
しかし卵に栄養分を取られてしまうために、
オスよりも味が落ちるという意見もあります。
日本では「子持ちシシャモ」が好まれますが、
オスのシシャモを好む国もあるそうです。
日本人ほど魚卵が大好きな国民はありません。
世界にも類を見ないほどです。
ところで、魚介類ではない「子持ち」があります。
「子持ち昆布」がそうです。
本当に昆布が卵を産むのでしょうか。
いいえ、そのようなことはありません。
「子持ち昆布」の卵はじつはニシンの卵です。
ニシンは海藻に産卵する習性があるのです。
卵には粘着性があり、昆布に産みつけられた卵が
海流に流されることはありません。
卵が何層にも重なって昆布に付着します。
それを収穫したものが「子持ち昆布」です。
ニシンの卵はカズノコと呼ばれますが、
カズノコと同様に、子孫繁栄の縁起物として、
おせち料理の一つになっています。
「子持ち昆布」の多くは天然ものではありませんが、
人工的に加工できるものでもありません。
ニシンが回遊する海域で昆布を育てて、
産卵期のニシンをそこに誘導します。
ニシンが昆布に卵を産みつけやすい環境を作り、
自然に「子持ち昆布」ができるようにしています。
日本の近海ではニシンが激減してしまいましたので、
「子持ち昆布」は主にカナダで生産されています。
もう一つ、魚介類ではない「子持ち」があります。
「子持ち高菜」です。
高菜は植物ですから、もちろん卵を産みません。
他の生物の卵が付着したものでもありません。
高菜の株の側面に生えてくる小さな脇芽のことです。
まるで子どものように見える可愛らしい蕾です。
高菜は一般に葉や茎の部分を食べますが、
「子持ち高菜」は蕾を食べます。
高菜のような辛みはなく、生でも食べられます。
コリコリとした食感が魅力です。
加熱調理するならば天婦羅が一番です。
火を通し過ぎないように素早く揚げます。
「子持ち高菜」の蕾は早春に芽生えるので、
収穫できる季節も限られています。
しかも一般の市場にはほとんど出回りません。
農園の直売所などで買い求めるしかありません。
まだまだ知名度が高くないので仕方ありませんが、
これから需要の伸びが期待されています。
子どもはいつまでも子どもではなく、
いつか大人に成長するものです。