おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

「つ」の字のハモ

ハモは京都の夏の味覚の代表です。

梅雨が明けて祇園祭の頃に旬を迎えます。

 

しかし、じつは秋にも旬を迎えます。

産卵を終えて身が肥えてくるからです。

 

産卵で身が細るのは、どの魚もそうです。

ハモに限ったことではありません。

 

寒い季節になると脂が乗るのは、どの魚もそうです。

ハモに限ったことではありません。

 

秋のハモは、「落ちハモ」「名残りハモ」と呼ばれています。

たいへん脂が乗っています。

 

夏のハモは、さっと湯引きして梅酢和えが最高です。

さっぱりとしたハモの旨みが味わえます。

 

透き通るような純白のハモに赤い梅が印象的です。

いかにも夏らしく爽やかで涼し気な一品です。

 

秋のハモは、天婦羅、蒲焼き、すき焼きに向いています。

ハモの深く豊かな旨みが味わえます。

 

究極のハモ料理は土瓶蒸しです。

ハモと松茸が奏でる最高傑作です。

 

松茸の土瓶蒸しは日本料理の至宝ですが、

そこにハモが加わります。

 

もう何も言葉は要りません。

ただ幸福感に浸るだけです。

 

なるほど舌の肥えた京都の人がハモを愛するわけですが、

京都のハモ料理はなぜ美味しいのでしょうか。

 

京都は内陸に位置するので、海産物には恵まれていません。

その代わり海産物を美味しく食べる技術に長けています。

 

たとえば、京料理に欠かせない昆布は北海道からやってきます。

「ニシンそば」に使われる身欠きニシンもそうです。

 

サバは若狭から「サバ街道」を通って京都に運ばれます。

グジと呼ばれる甘鯛も若狭からやってきます。

 

そうした海産物を大切に扱う伝統が京都にはあります。

そのため京料理は洗練されているのです。

 

ハモも京料理の定番ですが、京都ではハモは獲れません。

主に大阪湾で水揚げされたハモが京都に運ばれます。

 

ハモはたいへん生命力の強い生きものです。

京都に運ばれてもまだ生きています。

 

ただし、生け簀に入れると共食いしてしまいます。

一匹ずつ木桶に入れておきます。

 

大振りのハモは木桶に納まり切りません。

そのため、ひらがなの「つ」の字になります。

 

「つ」の字のハモは身が肥えていて生きのよい証拠です。

目利きの料理人に好まれるハモです。

 

京都のハモ料理が美味しい理由はいくつかありますが、

「つ」の字のハモが使われることもその一つです。