おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

ハタハタはなぜ魚偏に神と書くのか

魚の名前には、魚偏の漢字で表されるものが多くあります。

 

たとえば、サバは漢字で「鯖」と書きます。

代表的な青魚ですから、もっともな漢字です。

 

タラは漢字で「鱈」と書きます。

雪のように身が白く、雪が降る寒い冬に旬を迎えます。

 

ヒラメは漢字で「鮃」と書きます。

この上なく的確にヒラメの体型を表現しています。

 

中には説明が必要な魚たちもいます。

 

サワラは漢字で「鰆」と書きますが、

じつは春ではなく、冬に旬を迎えます。

 

春になると産卵のために沿岸にやってきます。

人々に春を告げる魚ですから「鰆」と書きます。

 

また、アジは味がよいのでアジと名づけられましたが、

参ってしまうほど旨いので「鯵」と書きます。

 

ニシンは漢字で「鯡」と書きます。

「魚に非ず」という意味です。

 

ニシンが獲れる北海道は、今でこそ米づくりが盛んですが、

寒冷地であるため昔は稲が育ちませんでした。

 

そこで米の代わりにニシンを年貢に納めていました。

米であって魚ではないという意味で「鯡」と書きます。

 

ところで、ハタハタは漢字で「鰰」と書きます。

なぜ魚偏に神なのでしょうか。

 

おそらく雷神に由来すると考えられます。

そのため、魚偏に雷と書くこともあります。

 

ハタハタは日本海オホーツク海の深海に生息していますが、

晩秋から冬にかけて、産卵のために浅瀬に集まります。

 

とくに海が荒れて雷が鳴る悪天候のときに大群でやって来ます。

そのため「カミナリウオ」の異名を持ちます。

 

ハタハタという一風変わった名前は雷鳴に由来します。

ゴロゴロやドンドンに相当する擬音語です。

 

現代でも「青天の霹靂(へきれき)」という慣用表現が残っていますが、

霹靂は、「はたた」とも「はたはた」とも読みます。

 

古語では激しい雷のことを霹靂神(はたたがみ)と呼んでいました。

おそらくそれがハタハタの語源であると考えられます。

 

ハタハタといえば昔から秋田県が有名です。

田楽やハタハタ寿司などの郷土料理があります。

 

秋田名物「しょっつる」はハタハタを発酵させた魚醤です。

日本三大魚醤の一つに数えられています。

 

しかし、残念ながら近年はハタハタの漁獲量が激減しています。

現在では秋田県よりも山陰地方の漁獲量が多くなっています。

 

徹底した漁獲制限や資源保護は今も続けられています。

ハタハタが雷神の如く復活するのを祈りたいと思います。