ケチャップというと普通はトマトケチャップを指しますが、
初めからトマトが使われていたわけではありません。
もともとケチャップは魚醤だったと考えられています。
魚醤は、魚介類を塩漬けにして発酵させた調味料です。
タイの「ナンプラー」やベトナムの「ヌクマム」が知られています。
東アジアから東南アジアにかけて古くから伝統的に作られてきました。
中国南部には、その名も「ケーチャップ」という魚醤があるそうです。
正確に何と発音するのかわかりませんが、漢字で「鮭汁」と書きます。
これがケチャップの語源ではないかと思われます。
これに近い名称がマレー語にもインドネシア語にも残っています。
ただし魚醤だけでなく、大豆や小麦の穀醤のことも指します。
18世紀になると、当時東南アジアを植地としていたイギリスにも
ケチャップが伝えられます。
イギリスでは、アンチョビを原料とするケチャップの他にも、
マッシュルームを塩漬けにして発酵させたものがあります。
ウスターソースによく似たケチャップも伝わっていることから
もしかしたら黒褐色だったかもしれません。
やがてケチャップは、ヨーロッパからアメリカに伝わります。
そこでついにトマトと出会います。
トマトはもともとアメリカ大陸が原産のナス科の植物ですが、
ヨーロッパに渡って食用に品種改良されました。
時代は流れ、面白いことに今度は逆にトマトがアメリカに
果実として輸入されることになりました。
いや、正しく言えば野菜として輸入されるようになりました。
輸入業者は、果実であれば関税がかからないことに目をつけ、
トマトを野菜ではなく果実に分類して輸入していました。
ところが、アメリカの農務省はトマトを課税対象にしたいと考え、
野菜畑で栽培されているのだから野菜であると主張しました。
結局、アメリカの最高裁判所はトマトを野菜として認定しました。
他の果実と違ってデザートに向かないというのがその根拠です。
たしかに当時のトマトは酸味が強く、現在の日本のトマトのように
生食には向いていません。
たいていは加熱調理してトマトソースとして利用されます。
それがケチャップの原料として採用された理由です。
こうして19世紀に世界初のトマトケチャップがアメリカで誕生しました。
アメリカ人の大好きなハンバーガーやホットドッグとの相性は抜群です。
瞬く間にアメリカ中で大人気となり、世界に広まっていきました。
日本には明治時代にアメリカからトマトケチャップが伝わりました。
洋食の普及とともに日本でも愛されるようになりました。
オムライス、チキンライス、ナポリタンスパゲッティなど、
今では日本の食文化にすっかり定着しています。
ケチャップ発祥の中国でもトマトケチャップが受け入れられています。
たとえば酢豚は、トマトケチャップを使った代表的な中華料理です。
ケチャップは、地球をぐるりと一周して里帰りしたみたいです。