おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

タイでないのにタイを名乗る魚たち

「あやかりタイ」という魚たちがいます。

タイではないのにタイを名乗る魚のことです。

 

日本人にとって、タイは昔から親しまれている魚です。

その人気にあやかりたい気持ちはよく理解できます。

 

私たちが一般にタイと呼んでいるのは、マダイのことです。

目出度い魚として祝い事には欠かせません。

 

神道では象徴的な意味を持ち、神事に奉納されることもあります。

七福神の一人、恵比寿様はタイを抱えた姿で知られています。

 

マダイの他に、クロダイ、チダイ、キダイなどがタイ科に属します。

本家のタイを名乗ることができるタイです。

 

イシダイ、アマダイ、イトヨリダイは、タイ科ではありませんが、

タイ科と同じスズキ目に属します。いわばタイの親戚です。

 

アコウダイ、キンメダイは、スズキ目でもありません。

親戚とは言えませんが、赤い魚体はタイを思わせます。

 

イボダイマトウダイは、赤くさえありません。

銀色の魚体からはタイを連想できません。

 

しかし、タイに負けないほど美味しい魚ですから

堂々とタイを名乗っています。

 

他にもタイを名乗る「あやかりタイ」は200種類を超えます。

なぜ、それほど多いのでしょうか。

 

その理由の一つに、漁業の技術が進歩したことが挙げられます。

遠洋漁業が盛んになり、沖合の魚が市場にも増えました。

 

それまであまり知られていなかった魚に和名をつけるときに、

高級なタイを名乗る方が注目されやすくなります。

 

そのため「あやかりタイ」が増えたのだと思われます。

 

しかし近年では、タイは必ずしも高級魚ではありません。

天然のタイでさえ、お手頃な価格になりました。

 

むしろアマダイやキンメダイの方がタイよりも価格は高く、

市場では高級魚として扱われています。

 

昔から「エビでタイを釣る」ということわざがあります。

わずかな元手で大きな利益を得ることを意味します。

 

現在では、逆の意味に解釈されてもおかしくありません。

もしかしたらエビの方が高価かもしれません。

 

ところで、名前をあやかる魚はタイばかりではありません。

 

たとえば、マグロでないのにカジキマグロを名乗ったり、

カツオでないのにマナガツオを名乗る魚がいます。

 

少し不思議な名前がシマアジです。

たしかにアジの仲間ですが、シマアジは高級魚です。

 

なぜ敢えて大衆魚のアジを名乗るのでしょうか。

それこそタイにあやかったらよさそうなものです。

 

もしかしたらシマアジは義理堅い魚なのかもしれません。

 

おいらはアジの仲間だ。裏切るわけにはいかねえ。

タイでもないのにタイを名乗るのはごめんだぜ。

 

そう言っているとしたら、なかなか気骨があります。

さすが鯔背(いなせ)なシマアジです。

 

シマアジのように、美味しい魚はたくさんあります。

タイだけがすべてではありません。