おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

刺身を洗いにするとなぜ美味しいのか

魚の薄切りを冷水に晒した料理を「洗い」といいます。

その名の通り、水でさっと洗って水気を切ります。

 

魚の余分な脂肪分を落とし、臭みを取る料理法です。

身が引き締まって旨味が強く感じられます。

 

水分を含んだ肉質には適度な弾力が生まれます。

刺身よりも心地よい歯応えが魅力です。

 

また、冷水に晒すことで涼感が得られます。

暑い夏に適した料理です。

 

洗いに向く魚は、主に淡白な白身魚です。

タイやスズキやコチが定番です。

 

脂の美味しい魚は、洗いに向いていません。

ハマチやマグロの中トロなどです。

 

北大路魯山人は、アユの洗いが一番と言っていますが、

じつは、他の魚も推奨しています。

 

たとえば星ガレイです。

 

魯山人は京都出身の美食家ですから

滅多に東京の食材を褒めません。

 

とくに魚に関しては関西に限ると言い切っています。

それでも、東京近海の星ガレイは天下一品だそうです。

 

少々厚めにした星ガレイを井戸水に洗って舌上に運ぶ。

まさに夏の美肴の天下一と絶賛しています。

 

またイワナの洗いも推奨しています。

 

イワナは山深い渓流に棲んでいます。

アユよりもさらに清流を好みます。

 

肉質はアユより重厚な感じがしますが、

高貴な淡白さを持っています。

 

イワナは塩焼きにすると美味しいのですが、

洗いにしても美味しいそうです。

 

私はイワナの洗いを食べてことがありませんが、

魯山人はもちもちした食感だと述べています。

 

ただしイワナも淡水魚です。

寄生虫が心配です。

 

たとえどんなに洗いが美味しくとも

正直なところ生食はお勧めできません。