おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

木の根と間違えられてしまった戦時中の悲しいゴボウ

 

戦争映画は戦闘の場面を描いたものばかりではありません。

収容所の捕虜を描いた名作もあります。

 

たとえばスティーブ・マックイーン主演の「大脱走」は、

ドイツ軍に捕えられた連合軍の捕虜の話です。

 

タイトル通り、捕虜たちが収容所からの大脱走を試みます。

うまく脱走できるかハラハラドキドキします。

 

最後にスティーブ・マックイーンがバイクで疾走して

鉄条網を飛び越えようとする場面は圧巻です。

 

また「戦場にかける橋」は、タイで日本軍の捕虜となった

イギリス兵の苦難を描いた映画です。

 

タイとミャンマーの国境を流れる川に橋を建設するため、

日本軍は捕虜たちに過酷な労働を強制します。

 

たとえ捕虜であっても、人間として尊厳を失うことなく、

誇り高く生きるイギリス兵の姿は印象的です。

 

同じく、日本軍の捕虜となったイギリス兵を描いた映画が、

大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」です。

 

デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、北野武ら異色キャストが

出演したことで話題となりました。

 

友情とまでは言えませんが、イギリス兵と日本兵の心の交流も

テーマの一つとなっています。

 

映画の中では、捕虜が非人道的に扱われる場面がありますが、

本来そうした行為はジュネーブ条約で禁じられています。

 

捕虜となった以上は非戦闘員ですから、その人権を守り、

怪我を治療し、適切な食事を与えなければなりません。

 

しかし、現実には劣悪な環境の下で過酷な生活を強いられ、

祖国に帰ることなく命を落とす捕虜も少なくありません。

 

何とか戦争を生き延びた捕虜の中には、その惨状を世に伝え、

戦争の愚かさを語り継ごうとする元兵士もいました。

 

終戦後、日本軍の戦犯を裁くために行われた東京裁判でも、

かつての捕虜が収容所の悲惨な状況を証言しています。

 

その一つに、収容所の食事が粗悪であることを示す例として

「木の根を食べさせられた」という証言があるそうです。

 

じつは、この「木の根」というのはゴボウのことです。

一般にゴボウは日本以外の国では食用にされません。

 

捕虜がゴボウを食べたことがなかったのは当然です。

そのため木の根と勘違いしたのでしょう。

 

しかも戦時中のことですから、調理方法も粗末であり、

あまり美味しい料理ではなかったと思われます。

 

たとえ捕虜を虐待する意図は全くなかったとしても、

捕虜にとってもゴボウにとっても不幸なことです。

 

ゴボウの名誉のために言うと、ゴボウは美味しい食材です。

まともに料理すれば、誰が食べても美味しいはずです。

 

木の根と思われたのは、ゴボウが悪いわけではありません。

すべては戦争が悪いのです。

 

戦争のない社会を築くことは大切なことです。

それをゴボウが教えてくれます。