初ガツオは初夏になると黒潮に乗って日本の近海にやってきます。
北上して三陸沖で夏を過ごすためです。
親潮と黒潮がぶつかる三陸沖は多くの魚が集まりエサが豊富です。
水温も低いので、カツオの身に脂が乗ります。
秋になると、今度は成長したカツオが産卵のために南下します。
それが戻りガツオです。
初ガツオは脂が少なくさっぱりした味わいが特徴ですが、
戻りガツオは脂の乗ったこってりした味わいが特徴です。
刺身にすると、マグロのトロにも負けない濃厚な美味しさです。
ところが、江戸っ子は戻りガツオが好きではなかったようです。
初ガツオには狂おしいほどの情熱を傾けるのですが、
戻りガツオとなると見向きもしません。
一体なぜなのでしょうか。
それは脂が乗っていたからではないしょうか。
脂が多いほど魚は傷みやすいからです。
今でこそ脂の乗ったトロは珍重されていますが、
江戸時代はそうではありませんでした。
冷蔵や冷凍の技術がない時代のことですから、
やむを得ないかもしれません。
マグロのトロなどは、猫でさえ食べずにまたいで通ります。
そのため「猫またぎ」という蔑称で呼ばれていました。
カツオは、サバ科に属する魚です。
マグロの近縁でもありますが、サバの近縁でもあります。
昔から「サバの生き腐れ」という表現があるほど
サバは鮮度が落ちやすい代表的な魚です。
カツオはサバほどではありませんが、風味の劣化が早い魚です。
まして脂が多いと一層劣化も早くなります。
遠くの太平洋岸の漁港から運ばれてきます。
そのため水揚げされてから江戸っ子の口に入るまでには、
多少鮮度が落ちていた可能性があります。
脂の少ない初ガツオであれば、それでも大いに歓迎されましたが、
脂の乗った戻りガツオは敬遠されてしまいました。
どうも戻りガツオは江戸っ子には好かれなかったようです。