成長とともに名前が変わる魚を出世魚といいます。
ブリやスズキやボラは代表的な出世魚です。
なぜ出世魚は名前が変わるのでしょうか。
まず、体が大きいことがその理由の一つだと思います。
スズキもボラも体長1メートル近くまで成長します。
ブリに至っては1メートルを優に超えます。
成長期を区別するために名前を変える必要があったと考えられます。
では、クロマグロはどうでしょうか。
クロマグロは体長3メートルを超える大型魚です。
地方名では、幼魚と成魚で名前が変わることもありますが、
その理由は何でしょうか。
諸説があるので断言はできませんが、出世魚の名前が変わるのは、
料理方法が変わるからではないかと私は考えています。
たとえば、西洋料理では羊の肉はマトン、子羊の肉はラムといいます。
同様に牛の肉をビーフ、子牛の肉をヴィールといいます。
名前が変わるのは、体の大きさだけでなく肉質が変わるからです。
そしてそれによって料理方法も変わるからです。
生後12か月頃になると、子羊も子牛も門歯が生えてきます。
母乳で育っていた子どもたちが草を食べるようになります。
すると、草を分解する消化酵素が体内に生じて肉質が変わります。
軟らかくて淡白だった肉に独特の風味が生まれてきます。
同じように、出世魚も成長するにつれて肉質が変わります。
それに合わせて料理方法も変えなければなりません。
とくにブリは成長すると脂が乗ってきます。
脂が強くないうちは刺身や塩焼きでさっぱりといただきます。
脂がほどよく乗ってきたら握り寿司が合います。
脂がこってりしてきたら照り焼きやブリ大根の出番です。
ブリの呼称は、地域によってだいぶ異なります。
主に関西ではワカナ、ツバス、ハマチ、ブリと変わります。
主に関東ではワカシ、イナダ、ワラサ、ブリと変わります。
幼名は違っても、最後がブリになるのは全国共通のようです。
最近では、関東でもハマチという名前を使うようになりました。
ところで、拙著「青いお魚おいしいね」でも書きましたが、
三島由紀夫が初めて食べた青魚はブリだったそうです。
三島由紀夫は子どもの頃、祖母の下で大切に育てられました。
体に悪いからと青い肌の魚を食べさせてもらえなかったそうです。
いつもヒラメやタイなどの白身魚ばかりだったのですが、
あるとき生まれて初めてブリを食べて感動したと言っています。
小説家として出世できたのは、ブリを食べたおかげかもしれません。
さて、話を元に戻しましょう。
クロマグロの肉質の差は、成長期の違いによるものではなく、
体の部位の違いによるものだからです。
サク取りする部位によって、赤身と中トロと大トロに分けられます。
成長するにつれて赤身からトロに変化するわけではありません。
ですから、部位によって料理方法を変えることがあっても、
成長に合わせて料理方法を変えることがほとんどないのです。
そのため、敢えて名前を変える必要もなかったと考えられます。
言うなれば、生まれながらにして出世を約束された魚と言えます。
まるで「余は生まれながらにして将軍である」と言ったと伝えられる
三代将軍徳川家光のような魚です。