赤豆腐という名の料理があります。
じつは豆腐ではありません。
マグロの刺身のことをいいます。
お坊さんの間ではそう呼ばれています。
仏教では生き物の殺傷が禁じられています。
肉や魚を食べることも許されません。
しかしこっそりと食べられることもあります。
密かに食べるために隠語を使います。
そのためマグロの刺身は赤豆腐と呼ばれます。
現代では脂の乗ったトロが珍重されていますが、
昔は脂の少ない赤身の方が好まれました。
冷蔵庫や冷凍庫がなかった時代のことですから、
脂の多いトロは傷みが早かったのでしょう。
猫でさえ、トロを食べずにまたいで通り過ぎるので、
トロは「猫またぎ」と呼ばれていました。
おそらく昔のお坊さんがこっそり食べていた赤豆腐も
色鮮やかな赤身だったと考えられます。
お坊さんの隠語は他にもたくさんあります。
たとえばエビは「緋の衣」といいます。
加熱すると緋色になるからです。
イワシは「紫の衣」といいます。
女房詞でも「紫」といいます。
それに因んだ命名と考えられます。
タコは「千手観音」といいます。
説明は不要かもしれません。
タコの八本足が観音様の手に見えるからです。
そのままの印象から名づけられました。
ドジョウは「踊り子」といいます。
跳ねる様子が踊るように見えたのでしょう。
もちろんドジョウは踊っているわけではなく、
鍋の中で熱くてたまらず跳ねているのです。
ちょっと残酷に感じられるかもしれませんが、
お坊さんには貴重なタンパク源です。
普段あまり滋養を摂らないお坊さんにとって、
たいへんはご馳走だったと思われます。