
赤塚不二夫は昭和を代表する漫画家の一人であり、
ギャグ漫画の旗手として知られています。
名作「天才バカボン」「おそ松くん」など数多くの
人気の作品を生み出してきました。
漫画から生まれた「シェー」や「これでいいのだ」や
「レレレのレ」は流行語にもなりました。
彼の漫画が昭和の世相を明るくしたと言っても、
決して過言ではありません。
しかし、人気漫画家となって多忙な連載が続くうちに、
ネタが尽きてしまうこともあったそうです。
その危機を救ったのが、映画や小説からの翻案です。
古典的な作品を原作として漫画を描き続けました。
とくに彼が好きだったのは、チャップリンの映画と
O・ヘンリーの短編小説だそうです。
実際に、チャップリンの感動的な名作「街の灯」や
O・ヘンリーの「警官と讃美歌」を翻案しています。
彼はチャップリンの映画から多くのことを学びましたが、
それはストーリーを模倣することだけではありません。
「スラップスティック・コメディ」という表現技法も
取り入れました。いわゆるドタバタ劇のことです。
漫画に登場するイヤミやチビ太が、チャップリン同様に、
体を張ってギャグを演じます。
バナナの皮に滑って転ぶ場面も作中に度々見られますが、
おそらくそれもチャップリンの映画の影響と考えられます。
じつはバナナの皮で滑って転ぶ場面は、チャップリンが
1915年に初めて映画の中で演じました。
それ以来、映画やテレビドラマやアニメにも広がり、
お決まりの場面として定着していきました。
日本でも赤塚不二夫だけでなく、多くの漫画家の間で
採用されています。
しかし、バナナの皮で滑る場面が読者の支持を得るには、
もう一つの条件が必要です。
それは、バナナという果実が庶民的でありふれた存在で
なければならないということです。
もし高価なメロンの皮であれば気楽に笑えません。
身近なバナナの皮だからこそ笑えるのです。
バナナの輸入が自由化されたのは、昭和38年のことです。
安価で美味しい果実として広く普及していきました。
偶然にもその時期に赤塚不二夫の漫画の連載が始まり、
急速に人気を博していくようになりました。
バナナはギャグ漫画の基本的な場面を描く小道具として、
重要な役割を担いました。
昭和の漫画にバナナの皮で滑って転ぶ場面が多いのは、
必然的なのかもしれません。