山田洋次監督の「武士の一分」という映画があります。
妻と仲睦まじく暮らす下級武士を描いた時代劇です。
山田監督らしく時代考証がしっかりとされているので、
江戸時代の下級武士の食生活がよくわかります。
主人公の武士が食事をする場面がありますが、
下級武士ですから、たいへん質素です。
たいていは「一汁一菜」の食事です。
ご飯の他に汁物一品とおかず一品です。
主人公は、食べ終わった茶碗を妻に差し出して
白湯を注いでもらいます。
これは当時の食事の作法です。
茶碗と箸を白湯で軽く洗います。
白湯を飲み干し、茶碗と箸をきれいに拭いて
箱膳に仕舞います。
じつは、主人公が妻に白湯を注いでもらう場面は、
物語の重要な伏線になっています。
ネタバレになるので詳しい紹介はできませんが、
映画の終盤にもう一度その場面が描かれます。
映画を観た人は「なるほど、そういうことか」と納得します。
山田監督の心憎い演出です。
映画の中には、「芋がら」の煮物が出てきますが、
主人公の好物ということになっています。
「今夜はあなたのお好きな芋がらの煮物よ」と、
妻が嬉しそうに主人公の夫に告げる場面があります。
じつは「芋がら」の煮物も物語の重要な伏線になっています。
ネタバレになるので詳しい紹介はできませんが、
映画の終盤に「芋がら」の煮物が描かれます。
映画を観た人は「なるほど、そういうことか」と納得します。
山田監督の心憎い演出です。
ところで、「芋がら」とはどのような食材なのでしょうか。
「芋がら」は里芋の茎の皮をむいて乾燥させたものです。
昔から里芋の茎は食用とされ、「ズイキ」と呼ばれています。
漢字では「芋茎」と書きます。
乾燥させていないものは一般に「ズイキ」といいますが、
乾燥させたものは「芋がら」といいます。
面白いことに、「ズイキ」の食感も「芋がら」の食感も、
里芋とは全く異なっています。
「芋がら」は水に浸して柔らかくしてから料理します。
煮物にすることが多く、素朴な味わいが魅力です。
ところが、現代は美味しい食材がたくさんあるせいか、
あまり「芋がら」が食べられなくなりました。
美味しくて栄養価が高く、しかも保存が利く食材ですが、
それが評価されていないのは残念です。
映画の終盤では、木村拓哉が演じる主人公の武士が、
夕飯に「芋がら」の煮物を食べる場面があります。
妻の「芋がら」の煮物の味をずっと忘れずにいます。
たいへん感動的な場面です。
「武士の一分」は木村拓哉の名演技が光る映画ですが、
「芋がら」の煮物もなかなかの名優です。
「武士の一分」にあやかって、木村拓哉に負けないほど
「芋がら」の人気も高まってほしいと思います。