
リンゴという言葉は、一般に果実のことを指します。
花のことを意味しません。
「リンゴが実る」「リンゴを食べる」とは言いますが、
「リンゴが咲く」とはあまり言いません。
花を指すときは「リンゴの花」という表現を使います。
通常は「リンゴの花が咲く」と言います。
それは、ブドウもメロンもバナナもイチゴも同じです。
花のことではなく、果実のことを意味します。
「ブドウが咲く」「メロンが咲く」「バナナが咲く」
「イチゴが咲く」とは言いません。
ところが、ウメとモモは違います。
花と果実の両方を指します。
「ウメが咲く」「モモを飾る」とも言いますし、
「ウメが実る」「モモを食べる」とも言います。
その理由は、古くからウメとモモが観賞用でもあり、
食用でもあったからです。
では、サクラはどうでしょうか。
サクラは明らかに花のことです。
「サクラが咲く」「サクラを観る」とは言いますが、
「サクラを食べる」とは絶対に言いません。
果実を表すときは、サクランボと言います。
「桜の坊」から転じた呼称です。
なぜ、サクラとサクランボを使い分けるのでしょうか。
それは、観賞用と食用の種類が違うからです。
観賞用のサクラとは一般にソメイヨシノのことです。
一斉に咲き誇る美しい姿はお花見に最適です。
しかし、満開の花こそ万人に愛でられますが、
散ってしまうと急に注目されなくなります。
そのため、ソメイヨシノの実が生っているのを
見たことがない人もいるのではないでしょうか。
もちろんソメイヨシノにも実が生ります。
濃い黒紫色の小さな実です。
わずかな甘味を感じますが、酸味と苦味が強く、
とても食用には向きません。
しかも、たわわに実ることもありません。
それも気づかれない理由の一つです。
ソメイヨシノは自家受粉しにくいサクラとして
知られています。
他のサクラの木から飛んできた花粉でなければ、
ほとんど結実しません。
もっとも果実を収穫する目的で栽培されませんので、
受粉を気にする必要はありません。
一方、サクランボが実る品種は「ミザクラ」です。
漢字では「実桜」と書きます。
日本で栽培されているサクランボの品種の多くは、
明治時代に伝わった「セイヨウミザクラ」です。
美しい花を咲かせますが、観賞用ではないので、
花を見たことがない人も多いと思います。
サクランボの花が咲く季節は、栽培農家にとって、
受粉作業に追われる忙しい時期です。
ソメイヨシノと同じように、サクランボの花も
自家受粉しにくいサクラです。
そのため、自然に任せたきりではサクランボが、
十分に結実しません。
そこで、わざわざ授粉用のサクランボの木を植えて、
そこから花粉を採取しています。
人間にたとえるならば、娘の結婚相手を幼い頃から
一緒に育てるような話ではないでしょうか。
サクランボは、まるで箱入り娘のように手をかけて、
大切に育てられる果実なのです。