おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

「そば」に旬があるのに「うどん」に旬がないのはなぜか

 

秋は新そばの季節です。秋になると日本各地のそばの名産地から

採れたてのそばの実がやってきます。

 

そば屋さんの店頭に「新そば入荷しました」が張り出されると、

もうそば好きは居ても立ってもいられません。

 

すぐにそば屋さんに駆け込み、新そばのさわやかな味と香りを

心ゆくまで楽しみます。

 

採れたて、挽きたて、打ちたて、茹でたての新そばの風味に

勝るものはありません。

 

美味しいという言葉さえ要りません。

ただただ堪能するばかりです。

 

新そばを味わうには「もりそば」が適しています。

豊かな新そばの香りが感じられるからです。

 

真のそば通は、卸したワサビや刻んだネギを使いません。

薬味がない方が、新そばの香りを純粋に味わえます。

 

同じ理由で、「ざるそば」もあまりお勧めできません。

海苔の香りが新そばの香りよりも強いからです。

 

そういう意味では、天ぷらも山かけもきつねもたぬきも

控えた方がよいかもしれません。

 

もちろん、温かい「かけそば」も悪くはありませんが、

熱々のそばつゆは出汁の香りが立ち過ぎます。

 

せっかくの新そばの香りが損なわれてしまいます。

やはり新そばを味わうには「もりそば」に限ります。

 

ところで、そばを冷たく食べる「もりそば」「冷やしそば」は、

今では暑い夏に欠かせない定番メニューになっています。

 

しかし、昔は夏のそばがあまり美味しくなかったと言います。

「夏のそばを犬も食わない」とまで言われたそうです。

 

現代と違って、そば粉を低温で保存する技術がなかったため、

夏には品質が劣化してしまったと考えられます。

 

おそらく梅雨時にカビが生えてしまったり発酵してしまったり、

食用に適さなくなることもあったのでしょう。

 

しかし、昔の人は夏の間にそばを食べずに我慢したからこそ、

秋の新そばが一層美味しく感じられたのかもしれません。

 

その点、現代人は夏の間そばを食べていても、なお秋の新そばが

美味しく感じられるから不思議です。

 

ところで新そばがあるのに、なぜ新うどんがないのでしょうか。

そばに旬があるのに、なぜうどんに旬がないのでしょうか。

 

その理由は、小麦粉にはそば粉のような豊かな香りがないから

ではないでしょうか。

 

秋に収穫されるそばと違って、小麦は初夏に収穫されます。

そのため旧暦の四月は「麦秋」とも呼ばれています。

 

しかし、その時期に収穫される小麦のことを「新小麦」とは

あえて呼びません。

 

小麦は一年中小麦です。もともと香りがほとんどないので、

長期保存しても、香りが損なわれることがありません。

 

そのため、うどんにはそばのような旬がなく、新そばのように

新うどんという呼び方もしないと考えられます。