では小倉餡とは何でしょうか。
小倉餡は、大納言を煮て蜜に漬けたものをこしあんに混ぜて作ります。
ただし一般にはつぶあんのことを小倉餡と呼ぶこともあります。
小倉餡という名前は京都の小倉山に由来します。
小倉山は桂川をはさんで嵐山と向かい合っています。
昔から紅葉の名所として知られています。
藤原定家の別荘である「小倉山荘」があったと伝えられています。
定家が小倉山荘で選定した歌集が小倉百人一首です。
小倉山の周辺では平安時代から小豆の栽培が始まりました。
たいへん良質の小豆が生産されたそうです。
ある菓子職人がその小豆を使って餡を作りました。
それが小倉餡と呼ばれるようになりました。
当地には小倉餡発祥の地を記す石碑が立っているそうです。
さて、もう一つの由来があります。
小倉餡が紅葉のように美しいからという説です。
小倉山が紅葉の名所であることは先ほど述べました。
紅葉を詠んだ和歌が小倉百人一首にも収められています。
小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ
貞信公の歌ですが、小倉山の紅葉に対する愛情が感じられます。
京に住む人にこよなく愛されていたことがわかります。
こしあんに点在する大納言が小倉山を彩る紅葉に見えたのでしょうか。
小倉山の名を取って小倉餡と名づけられました。
かなり強引な説に思われるかもしれませんが、
食べものを花や紅葉に譬えることは珍しいことではありません。
例えば鶏肉や魚介の「竜田揚げ」がそうです。
竜田揚げの竜田とは奈良の生駒を流れる竜田川のことです。
その流域は紅葉の名所として知られています。
竜田揚げは、醤油で下味をつけ片栗粉をまぶして油で揚げる料理です。
揚げ色が竜田川の紅葉のように赤いので名づけられました。
ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは
神の代にも聞いたことがないほど紅色に染まっているという歌です。
在原業平の代表的な作品です。
川岸の紅葉が色鮮やかに水面に映っているとも解釈できますし、
舞い散った紅葉が水面を赤く覆いつくしているとも解釈できますが、
おそらく後者ではないかと思います。
後世、流水に紅葉を配した図案を竜田川模様と呼ぶようになりました。
竜田揚げもそれに劣らぬ芸術的な名前です。