おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

世界を救う昆虫食その3 チーズバエ

ハチの幼虫に形状が似ているのが、ハエの幼虫です。

通称「ウジ」または「ウジ虫」と呼ばれます。

 

ハエは、病原菌を媒介する不衛生な害虫として忌避されています。

そのせいか、幼虫もまた成虫と同様に嫌われています。

 

不潔な虫、不快な虫の代表のように思われていますが、

じつは生態系における分解者として有益な役割もあります。

 

無菌状態で育てたハエの幼虫は、医療にも利用されています。

傷や潰瘍の死滅した組織を分解して清潔にしてくれるのです。

 

しかし、もっと驚くべきことがあります。

何と食品の製造過程にもハエの幼虫が用いられているのです。

 

それは「カース・マルツゥ」というチーズです。

イタリアのサルデーニャ島の特産品です。

 

サルデーニャ語で「腐ったチーズ」という意味だそうです。

何だか名前を聞いただけでも不穏な食品のように思われます。

 

衛生上の理由で、法律によって販売が禁止されているそうですが、

製造までは禁止されていません。さすが大らかな国イタリアです。

 

使われているのはペコリーノ・サルドという普通のチーズです。

そこに「チーズバエ」が飛んできて卵を産みつけます。

 

卵から孵った何千という幼虫がチーズを食べて酵素を分泌します。

その酵素のおかげで、チーズの発酵が飛躍的に進んで熟成されます。

 

3か月ほどで脂肪分が完全に分解されて柔らかくなります。

まるでクリームのようにとろりとした状態です。

 

熟成というよりも、腐敗という表現が近いかもしれません。

チーズの中には体長8ミリほどの幼虫たちがうごめいています。

 

ナイフでチーズをすくおうとすると幼虫たちが飛び跳ねます。

目を保護しなければならないほどの想像以上のジャンプ力です。

 

なるほど英語で「チーズ・スキッパー」と呼ばれるのも頷けます。

 

食べるときは幼虫を取り除くのかと思うと、そうでもないようです。

地元では、そのまま幼虫ごと食べる人も多いそうです。

 

酸味と苦味があってかなり刺激的な味だそうです。

食べ慣れていない人には、かなり抵抗感があると思います。

 

できることなら「巨人の星」の伴宙太にも食べてもらいたいです。

いかに豪傑な伴宙太でも、さすがに躊躇するのではないでしょうか。