カツオ一尾を丸ごと買うのでなければ作れない料理があります。
カツオの「すり流し汁」がその一つです。
カツオを三枚に卸すと、中央の骨の部分が残ります。
いわゆる「中落ち」と呼ばれるところです。
骨の間に身がついているので捨てるには惜しい部分です。
そもそも魚は、骨と身の間に旨みがあります。
サヨリならば、素揚げにして「骨せんべい」にします。
塩を一振りし、一夜干しにしてから油で揚げます。
ブリならば、大根と炊き合わせて「ブリ大根」にします。
ショウガを効かせたブリの旨みが大根によく滲みます。
サバならば、船場汁にします。タイならば、潮汁にします。
ではカツオならば、どう料理すればよいでしょうか。
カツオの中落ちを使った「すり流し汁」と呼ばれる料理があります。
江戸時代から料亭や割烹で作られてきた伝統の一品です。
まず、カツオの中落ちについた身をスプーンでこそぎ落します。
昔は二枚貝の貝殻を使っていたようです。
それを擂り鉢でよく擂って出汁で伸ばします。
加熱してアクを取ります。
葛を引いて少しとろみをつけ、「吸い地」を作ります。
吸い地に碗種と吸い口を添えて吸い物に仕立てます。
上品で味わい深いカツオのすり流し汁の完成です。
中落ちだけにカツオの旨みが骨身に沁みます。
明治、大正、昭和の美食家として知られる北大路魯山人は、
すり流し汁をアレンジして、味噌汁にしました。
カツオを擂るときに、出汁ではなく味噌を加えます。
それをよく練って味噌汁に仕立てます。
味噌汁にはカツオ節から取った出汁がよく合いますから、
カツオのすり流しが味噌汁に合わないわけはありません。
上品な吸い物よりも、むしろ味噌汁の方がカツオの野趣を感じます。
カツオの個性を見逃さないところは、さすが北大路魯山人です。