おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

世界を救う昆虫食番外編 タニシ

タニシは昆虫ではありませんが、貴重な食料源です。

フランス料理のエスカルゴにも匹敵する食材です。

 

多才な芸術家であり美食家であった北大路魯山人は、

タニシが大好物だったそうです。

 

その北大路魯山人は、肝硬変で亡くなりました。

 

十分に加熱していない半生のタニシを食べたことによる

肝吸虫が原因ではないかと考えられています。

 

美食家ともあろう人物が、高級食材ならともかく、

なぜタニシのような貧相な食材を好んだのでしょうか。

 

じつはそこが、美味を追求した魯山人の素晴らしいところです。

食材の真の価値を見抜く優れた味覚を持っていました。

 

高級であろうとなかろうと魯山人には関係ありません。

旨いものは旨いのです。

 

もちろん食材だけでなく調理方法にもこだわりました。

貝類は火を通し過ぎると固くなります。

 

加熱によってタニシの旨みを最大限に引き出せるような

ぎりぎりの火加減を見切ったのだと思います。

 

しかし、淡水域に棲む魚介類には寄生虫の危険性があります。

本来は十分に火を通して調理すべきです。

 

私たちは決して魯山人の真似をしてはいけません。

 

タニシはかつて日本中の水田に生息していました。

農薬の普及によって、その数は激減してしまいました。

 

日本には4種類のタニシが確認されていますが、そのうち、

マルタニシとオオタニシは絶滅危惧種になっているそうです。

 

今ではタニシを食べる機会はほとんどありませんが、

私が子どもの頃はよく食べていました。

 

水田のタニシは泥臭いので、きれいな水で泥を吐かせます。

鍋で茹でた後、竹串で巻貝から身を取り出します。

 

味噌との相性がよいので、酢味噌和えや辛子味噌和えにします。

ワケギやアサツキと一緒に「ぬた」にしても美味しいです。

 

味噌汁にしたものは、「ツボ汁」または「ツブ汁」と呼ばれます。

シジミの味噌汁と同様によい味が出ます。

 

タニシは私にとって懐かしい味です。

 

近年は、水田にアイガモ農法を取り入れる農家も増えています。

アイガモを放し飼いにして雑草や害虫を食べてもらう農法です。

 

除草剤や殺虫剤を使う必要がなく、水田の生態系が守られます。

しかもアイガモの排出物が有機的な肥料にもなります。

 

おかげでタニシやドジョウやカエルが水田に戻ってきています。

これからの持続可能な農法として期待されています。

 

タニシがいつか一般的な食材に復活する日が来るかもしれません。

 

さて、先ほども述べましたが、タニシは昆虫ではありません。

しかしタニシを食べることと昆虫食の根幹は同じです。

 

それは自然環境を守り、食料を安定的に確保するということです。

食料について考えることは自然環境について考えることと同義です。

 

昆虫食は、改めてそれを私たちに教えてくれます。