おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

全く違う二つの顔を持つキノコ

エノキタケはエノキの木の幹に生るので名づけられました。

実際にはエノキだけでなく、ケヤキや柿の木にも生ります。

 

紅葉がすっかり散って、雪が舞い始める季節になると出てきます。

雪が積もっても育つので、別名「ユキノシタ」ともいいます。

 

私たちがよく知るエノキタケは、白くほっそりしています。

それは人工的に栽培されているからです。

 

野生のエノキタケは、栽培種とは全く違った姿をしています。

柄は太く短く、傘は大きく開いています。

 

褐色の傘の表面には、つやつやした「ぬめり」があります。

これがエノキタケかと見間違うほど異なっています。

 

野性のエノキタケを加熱すると一層ぬめりが増します。

そのため「ナメタケ」とも呼ばれます。

 

地方によっては「ナメコ」と呼ぶところもあるそうですが、

エノキタケとナメコとはもちろん別のキノコです。

 

エノキタケはタマバリタケ科で、ナメコはモエギタケ科です。

ナメコはたいていブナの倒木に生えています。

 

料理方法もエノキタケとナメコではちょっと違います。

 

ナメコの料理といえば、何といっても味噌汁です。

豆腐とナメコの味噌汁は絶品です。

 

野生のエノキタケは、味噌汁も澄まし汁も美味しいです。

ネギや豆腐やコンニャクを入れたキノコ鍋もお薦めです。

 

ところで、なぜ野生と栽培のエノキタケは姿が違うのでしょうか。

どうやら栽培方法に秘密があるようです。

 

菌床栽培の原理が発明されたのは、約百年も前のことです。

おがくずに菌を植えて栽培する方法です。

 

一般に菌床栽培のエノキタケは光を当てずに育てられます。

そのためモヤシのように長細く伸びるそうです。

 

えっ、エノキタケに光が要るの?

光合成しないでしょう?

 

と思われるかもしれません。

 

たしかにエノキタケは光合成しません。

成長そのものに光は要りません。

 

しかし、エノキタケは光を求める性質を持っています。

光があるところに出ると、胞子を広く飛ばせるからです。

 

ただしモヤシのような軟白栽培ではありません。

もともと白い品種を栽培しています。

 

最近は、白くないエノキタケも出回っています。

「ブラウンエノキ」と呼ばれています。

 

野生種のエノキタケを交配した栽培種です。

その名の通り、茶色をしています。

 

味と歯応えがよく、野生種に近い特徴を持っています。

お値段が高くても、その分人気も高いエノキタケです。