おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

薩摩汁は本当に薩摩鶏を使うのか

薩摩汁は鹿児島の郷土料理です。

 

鶏肉と野菜を煮て味噌仕立てにした料理です。

薩摩芋や薩摩揚げが入った料理ではありません。

 

鹿児島では昔から闘鶏が盛んに行われていました。

薩摩武士の士風高揚のためといわれています。

 

闘鶏は、どちらかの鶏が死ぬまで戦います。

負けた鶏は、その場で絞められて料理されてしまいます。

 

そして薩摩汁として武士たちに振る舞われたそうです。

残酷な気もしますが、いかにも武士らしい野戦料理です。

 

現在では、動物愛護の観点から闘鶏は禁止されています。

しかし薩摩汁の伝統は今も受け継がれています。

 

ところで薩摩汁には本当に薩摩鶏を使うのでしょうか。

 

薩摩鶏は、闘鶏にふさわしく攻撃的な激しい気性を持っています。

島津氏の祖である忠久公の時代から飼育されたともいわれています。

 

しかし、江戸時代に薩摩藩で生まれたという説が有力です。

軍鶏(しゃも)と小国鶏(しょうこくけい)を交雑した種です。

 

ちなみに、軍鶏も闘鶏用として江戸時代にタイから伝えられました。

当時のタイはシャムと呼ばれていたので、軍鶏はそれに因む命名です。

 

肉質がよく、闘鶏が禁止された後も軍鶏鍋などの料理に使われています。

おそらく薩摩鶏も軍鶏の血を受け継いでいるので美味かもしれません。

 

しかし薩摩鶏は食用に飼育されることはなく、薩摩汁にも使われません。

 

昭和18年には国の天然記念物にも指定されました。

現在は観賞用として飼育されています。

 

その代わり、「かごしま地鶏」の父となって一代雑種を生み出しています。

「かごしま地鶏」とは「さつま若しゃも」「さつま地鶏」「黒さつま鶏」です。

 

薩摩鶏と「白色プリマスロック」と交配した種が「さつま若しゃも」です。

薩摩鶏と「ロードアイランドレッド」と交配した種が「さつま地鶏」です。

薩摩鶏と「横斑プリマスロック」と交配した種が「黒さつま鶏」です。

 

それぞれ薩摩鶏の血を引いた高品質のブランド鶏です。

薩摩汁だけでなく、さまざまな鶏肉料理に使われています。

 

薩摩料理といえば豚肉やカツオやキビナゴが有名ですが、

かごしま地鶏を使った鶏肉料理も広く親しまれています。