「あんたがたどこさ」という手毬歌があります。
地域によって多少歌詞が違いますが、私が知っているのはこんな歌です。
あんたがたどこさ 肥後さ 肥後どこさ 熊本さ 熊本どこさ 船場さ
船場山には たぬきがおってさ それを猟師が 鉄砲で撃ってさ
煮てさ 焼いてさ 食ってさ それを木の葉で ちょいと被せ
実際に熊本には船場山という地名はないそうです。
日常的にたぬき猟が盛んであったわけでもないようです。
しかし、なぜ木の葉で被せる必要があったのでしょうか。
もしかしたら、熊本には美味いたぬきがいたのかもしれません。
見つからないように食べ残しを木の葉で隠したのでしょうか。
また、美味いたぬきの棲息地を人に知られないようにするために、
猟師たちは、船場山という架空の地名を使ったとも考えられます。
果たしてたぬきの肉は本当に美味しいのでしょうか。
それ以前に、食用に向いているのでしょうか。
昭和初期に出版された「狸考」という書物には、たぬき汁について
次のように述べられています。
「狸汁を食って美味かったと云う人と、不味かったと云う人がいる。
美味かったと云う人は、狸を食ったのでなくて、穴熊を食った人なので、
狸の肉は臭気があり、嗜好に適するものではない。」
どうやら食べられなくはないようですが、あまり美味くもないようです。
もし美味かったら、食用としてもっと普及しているはずです。
家畜化されて品種改良されてもおかしくありません。
農耕に適さない山間地の猟師が食用とする程度だったと考えられます。
昔は本物のたぬきの肉を使ったたぬき汁もあったそうですが、
今では油で炒めたコンニャクを使うのが一般的です。
精進料理の一つで、食肉が禁じられている寺院で作られました。
たぬき汁という名称は、肉がコンニャクに化けたことに由来します。
千切ったコンニャクを油で炒めるとまるで肉のような食感になります。
凍みコンニャクを使うとさらに肉の歯応えに似てきます。
凍みコンニャクは、厳冬期にコンニャクを天日に干して作ります。
冷凍と乾燥を繰り返すことで水分が抜けてスポンジ状になります。
ちょうど棒寒天や高野豆腐の製法に近い作り方です。
長期保存できて、使うときは水で戻します。
たぬき汁の作り方は、地域や家庭によって異なります。
味噌仕立てにするものと澄まし汁にするものがあります。
味噌を使うのは、獣肉の臭いを消した名残ともいわれています。
澄まし汁よりも野趣あふれる力強い味わいなります。
生姜や七味唐辛子や山椒が薬味に使われることもありますが、
これも獣肉の臭いを和らげる工夫だったのかもしれません。
ちなみにコンニャクを使わず、揚げ玉を使うたぬき汁もあります。
たぬきそばを応用した料理と考えられます。
天ぷらを揚げるときに生じる揚げ玉は、天かすとも呼ばれます。
また、タネが入っていないのでタネ抜きとも呼ばれます。
タネ抜きそばがやがて転訛してたぬきそばになったという説があります。
たぬきだけに変幻自在です。