おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

名前が知られていないけど美味しい魚 その3 パンガシウス

天然の水産資源を守るため、さまざまな取り組みが行われています。

MSC認証」という制度もその一つです。

 

海洋管理協議会MSC)」が認証ラベルを発行する制度です。

「海のエコラベル」とも呼ばれています。

 

漁獲方法、漁獲時期、漁獲量などが厳格に定められ、

それを適切に守っている水産業者に与えられます。

 

「海のエコラベル」がついた水産物を購入することによって

消費者は水産資源の保護に一役買うことができます。

 

もう一つ、「ASC認証」という制度も設けられています。

養殖場の自然環境や労働者の人権を守る制度です。

 

「責任ある養殖により生産された水産物」であることを

「水産養殖管理協議会(ASC)」が認証しています。

 

MSCもASCも持続可能な水産物であることを認証する制度です。

 

まだまだ国内における知名度はそれほど高くありませんが、

ある大手の流通業界の企業が積極的に推奨しています。

 

たいへん素晴らしい取り組みだと思います。

 

魚介類を選ぶ基準は、新鮮で美味しくて手頃な価格であることですが、

これからは海の環境や生態系のことも考えなければなりません。

 

その基準を満たす魚が日本の食卓にも広まりつつあります。

それが「パンガシウス」です。

 

聞き慣れない名前かもしれませんが、ナマズ目の淡水魚です。

正式には、ナマズパンガシウス科に属する魚の総称です。

 

主に東南アジアやインドの河川や汽水域に棲息しています。

世界最大の淡水魚としても知られています。

 

最大のパンガシウスの仲間は、「メコンオオナマズ」です。

体長は3メートルに達することもあるそうです。

 

ただし「メコンオオナマズ」は絶滅の危機に瀕しているので

ワシントン条約で保護されています。

 

食用にするのは、養殖場で育てられるいわゆる食用ナマズです。

現地では「バサ」や「チャー」と呼ばれるそうです。

 

ナマズなど食べられるのかと驚かれるかもしれませんが、

じつは日本でも古来よりナマズは食用とされてきました。

 

河川や湖沼の水底に棲息しているので泥臭いと思われがちですが、

まったくクセのない淡白な白身魚です。

 

私も子どもの頃からよくナマズを食べていました。

ドジョウやフナやタニシと同じ身近な食材です。

 

ナマズは煮付けや天婦羅に料理することもありますが、

たいていは味噌汁です。

 

味噌汁というよりは「鯉こく」のような味噌味の煮込みです。

淡白な白身魚ながら奥深い味わいが楽しめます。

 

日本に輸入されているパンガシウスはほとんどが切り身です。

皮も骨もきれいに取り除かれています。

 

とてもナマズに見えませんが、優れた食材には変わりません。

白身魚として洋風にも和風にも使えます。

 

洋風にするならば、ムニエル、フライ、ソテーが適しています。

アクアパッツァにも向いています。

 

和風にするならば、煮付けや唐揚げや蒲焼きがお薦めです。

タラチリのような鍋料理にも向いています。

 

万能選手のパンガシウスですが、まだまだ普及していません。

もっとよく知ってほしいと思います。

 

名称がどことなく親しみにくい印象があるのも難点です。

まるでシーラカンスのような古代魚にも思われます。

 

もう少し愛らしい名称に改称するという手もありますが、

私はパンガシウスのままでよいと思います。

 

なぜならば、今後さらに水産資源の開発が進むことによって

聞いたことのない名前の魚介類が次々と現れるからです。

 

たとえば「ホンビノスガイ」などはそのよい例です。

ハマグリに近い品種ですが、知られていません。

 

その都度親しみやすい和名を考えるのもたいへんです。

ありのままの名称を受け入れてもよいのではないでしょうか。

 

パンガシウスが日本の食卓に受け入れられることを期待します。