おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

名前が知られていないけど美味しい魚 その2 メロ

メロという名前の魚がいますが、

私はメルルーサの別名だと思っていました。

 

メルルーサという名前がまるで怪獣のように怖い名前なので

可愛らしくメロと改名したのではないかと。

 

しかし、メロとメルルーサはまったく異なる種類の魚です。

メロはスズキ目メルルーサはタラ目に分類されます。

 

メロの正式な和名は「マジェランアイナメ」といいます。

マゼラン海峡アイナメという意味です。

 

魚体は似ていますが、メロはアイナメではありません。

アイナメカサゴ目の魚です。

 

名前の通り、マゼラン海峡の海域が漁場になっています。

アルゼンチンやチリが主な漁獲国です。

 

メロという呼称は、古くからチリで使われていたようです。

スペイン語でハタ科の魚を指すそうです。

 

ハタもスズキ目の大型魚ですが、メロはハタに負けていません。

大きいものは体長が2メートルを超えることもあります。

 

また、メロは長寿の魚としても知られています。

中には50年も生きる強者もいるそうです。

 

では、大味なのかというとそうではありません。

上品に脂の乗った白身魚です。

 

煮付け、照り焼き、カマの塩焼きなどに適していますが、

何といっても西京焼きが最高です。

 

西京焼きのために生まれた魚と言っても過言ではありません。

奥ゆかしい甘みのある西京味噌との相性は抜群です。

 

とろけるようなメロの旨みが口の中に広がります。

西京焼きを食べずにメロを味わったとは言えません。

 

メロは以前「ギンムツ」という名前で親しまれてきました。

ギンムツの西京焼きという呼称は今も残っています。

 

ところが20年ほど前に流通名をメロに改名しました。

本家の「ムツ」と混同してしまうからです。

 

「アカムツ」「クロムツ」などムツを名乗る魚はたくさんいます。

ギンムツもムツの仲間だと勘違いされるおそれがあります。

 

その混乱を避けるために、法律まで改正されました。

メロをギンムツとして売ることが禁止されたのです。

 

しかし、ギンムツとして売ることは禁止されましたが、

ギンムツと呼ぶことまでは禁止されていません。

 

料理の本やウェブサイトでは、相変わらずギンムツと呼んでいます。

あるいは、メロとギンムツを併記して紹介しています。

 

法律で定めるのは厳し過ぎると思われるかもしれませんが、

魚介類の名称は曖昧なものが多いのです。

 

たとえば、アカガイと称してじつはサルボウガイだったり、

高級魚メヌケがじつはアコウダイだったりします。

 

名称を明確にすることは、消費者の利益にもつながります。

ここは一つ、メロに統一してよいのではないでしょうか。