おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

ハッサクの名の由来

ハッサクは、広島県因島原産の柑橘類です。

 

甘みは少なく、上品な酸味があります。

そしてほのかな苦みが特徴です。

 

甘く食べやすい柑橘類が現代の主流ですが、

古来の独特の存在感を示しています。

 

皮を剥いた瞬間に立ち昇る爽やかな香りは最大の魅力です。

 

その代わり、皮が厚くて剥きにくいのですが、

無骨なところもハッサクらしい特徴です。

 

江戸時代に因島のお寺の境内で発見されたそうです。

ハッサクと命名したのもそのお寺のご住職です。

 

ハッサクは漢字で書くと「八朔」です。

旧暦の八月一日のことです。

 

新暦に換算すると、八月下旬から九月下旬に当たります。

毎年ずれるのは、旧暦が月齢に合わせているためです。

 

旧暦では、毎月一日は必ず新月の日です。

毎月十五日が必ず十五夜であるように。

 

ちょうど八朔の頃は、田の稲が実り始める季節です。

そのため「田の実の節句」とも呼ばれています。

 

昔から稲の実りに感謝し、初穂を贈答する習慣がありました。

また、八朔を祝う祭りも各地で行われています。

 

ハッサクという名は、八朔の頃から食べられるという理由で

命名されたと伝わっています。

 

しかし、実際には八朔の季節にハッサクはまだ熟していません。

食べられなくはないにしても、旬ではありません。

 

ハッサクが収穫されるのは、晩秋から冬の間であり、

市場に出るのは、冬から春の間です。

 

もしかしたら「八朔の頃から食べられる」のではなく、

「八朔の頃から実り始める」のかもしれません。

 

それが誤って伝わってしまったということも考えられます。

命名が謎めいているところもハッサクらしい魅力です。