おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

なんで関東で鶏肉のこと「かしわ」ゆわへんねん

夢路いとし喜味こいし」師匠は昭和を代表する漫才師でした。

「上方漫才の至宝」と称される名人芸で親しまれました。

 

兄のいとし師匠がボケ役、弟のこいし師匠がツッコミ役でした。

思わずくすっと笑ってしまう味わいのある話芸が特徴でした。

 

上方では鶏肉のことを「かしわ」と呼びますが、

それをネタにした漫才を今でも覚えています。

 

いとし「かしわゆうたら何や?」

こいし「鶏肉のことや。」

いとし「なんでかしわゆうねん?」

こいし「鶏肉がかしわの葉に似とるからやろ。」

いとし「なんで生きとるうちはかしわゆわへんねん?」

こいし「死んだらかしわになんねん。」

いとし「ほな、戒名か?」

 

たしかに生きている鶏のことを「かしわ」とは呼びません。

それは他の肉類でも同じです。

 

馬肉は「さくら」、鹿肉は「もみじ」、猪肉は「ぼたん」ですが、

それぞれ精肉となって初めてそう呼ばれます。

 

ところで、鶏肉をかしわと呼ぶのは主に西日本です。

東日本では、かしわという呼称はあまり使われません。

 

いとし師匠ならば、きっとこうおっしゃるでしょう。

なんで関東で鶏肉のこと「かしわ」ゆわへんねん。

 

もともと日本在来種の鶏肉をかしわと呼んでいたので、

かしわという呼称は全国的に使われていました。

 

しかし江戸時代になると軍鶏が伝わります。

在来種に劣らない美味しい鶏肉です。

 

西日本ではかしわが好まれ、東日本では軍鶏が好まれ、

次第に嗜好の地域差が生じたようです。

 

そのため西日本には従来のかしわという呼称が残りました。

決して東日本の人が新しがり屋というわけではありませんが。

 

さらに明治時代になると西洋からの移入種が増えます。

昭和時代にはブロイラーが普及します。

 

短期間で成長するために価格もお手頃です。

今では鶏肉といえばブロイラーを指すほどです。

 

いとし師匠ならば、きっとこうおっしゃるでしょう。

ほな、なんで鶏肉のこと「ブロイラー」ゆわへんねん。

 

なぜなのでしょうか。

こいし師匠、教えてください。