おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

渋柿の意外な使い道

時代劇では貧しい下級武士や浪人が内職をする場面があります。

傘張りの内職はよく見られます。

 

日本の和傘には「番傘」や「唐傘」などがあります。

いずれも竹で骨組みを作り、和紙を張ります。

 

当然、和紙は雨に濡れると破れてしまいます。

そこで傘張りをするときに防水加工を施します。

 

通常は油を塗りますが、他の素材を用いることもあります。

それが渋柿から抽出した「渋」です。

 

未熟な渋柿を絞って発酵させた抽出液のことです。

防水だけでなく、防腐と防虫の効果もあります。

 

渋を和紙に塗って乾燥させると紙質が硬くなります。

しかも油のようにべとつきません。

 

たいへん便利は物質ですが、一つだけ欠点があります。

不快な臭いです。

 

渋を発酵させる過程で「酪酸」が生じます。

それが悪臭の原因です。

 

酪酸はチーズなどの酪農製品に含まれています。

チーズのあの匂いを生み出す物質です。

 

フランスの「エポワス」や「マロワール」は、

世界で最も臭いチーズと言われています。

 

おそらく酪酸がたっぷり含まれているのでしょう。

 

酪酸は植物にも含まれ、銀杏の匂いの原因にもなっています。

どのような匂いか容易に想像がつくのではないでしょうか。

 

しかし、渋柿に酪酸は含まれていません。

干し柿にしても生じません。

 

安心して干し柿を食べることができます。