おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしい食べもののおいしいことばを探してみましょう。

「女王様がご病気です」という名前のジャム

ダイダイはヒマラヤが原産で、中国を経由して日本に渡来しました。

ヨーロッパにも伝わり、ビターオレンジと呼ばれています。

 

ヨーロッパでもダイダイを生食にはしません。

ジャムか砂糖漬けにします。

 

ダイダイを皮ごとジャムにしたものをマーマレードといいます。

甘みの中にほろ苦さが感じられるジャムです。

 

ところでマーマレードの語源は何でしょうか。

 

16世紀のスコットランド女王メアリー1世に由来するといわれています。

メアリーは父の急死に伴い、わずか生後6日で女王に即位しました。

 

母親がフランス貴族の出身であり、イングランドの攻撃を避けるため、

幼い頃はフランスの宮廷で大切に育てられました。

 

ときどき具合が悪くなって何も食べられなくなったとき、

侍女は厨房の料理人にフランス語でこう叫びました。

 

「マリー・エ・マラード!」

メアリー女王様がご病気です。

 

すると料理人は急いでオレンジとハチミツのジャムを作りました。

それは、病気のメアリー女王が口にできる唯一の食べ物でした。

 

マリー・エ・マラードがいつしかマーマレードとなり、

オレンジのジャムを指すようになりました。

 

スコットランドには、そういう伝説が残っています。

しかし、伝説は伝説に過ぎません。

 

なぜならば、メアリー女王がお生まれになる百年以上も前から

マーマレードという言葉があるからです。

 

では、マーマレードの本当の語源は何でしょうか。

ポルトガル語マルメラーダに由来するというのが定説です。

 

マルメラーダとはマルメロのジャムのことであり、

マルメロとはカリンによく似た香りのよい果実です。

 

カリンと同様に果実は硬くて生では食べられませんが、

果実酒や砂糖漬けにします。

 

初めはマルメロのジャムを意味していたマルメラーダが、

果皮の入った柑橘類のジャムも指すようになりました。

 

やがてマルメラーダがマーマレードに転化して

フランス語や英語の単語になっていきました。

 

今はダイダイよりオレンジのマーマレードが主流ですが

それでも代々使われている名称です。