「おばろ昆布」は昆布の表面を薄く削ったものです。
ふわっとした食感と豊かな昆布の風味が魅力です。
「とろろ昆布」とよく間違われますが製法が異なります。
とろろ昆布は何枚かの昆布を束ねてその側面を削ります。
おぼろ昆布は一枚ずつ昆布の表面を削ります。
とろろ昆布は機械で削りますが、
おぼろ昆布は職人が手作業で削ります。
「おぼろ豆腐」は型入れしない柔らかい状態の豆腐のことです。
おぼろ月のようなゆらゆらした感じが特徴です。
大豆のほのかな甘みを堪能できる豆腐の原点です。
豆乳に苦汁(にがり)を打って寄せたところを椀に掬うので、
「寄せ豆腐」とも「汲み出し豆腐」とも呼ばれます。
単に「おぼろ」というときは「田麩(でんぶ)」のことを指します。
田麩とは魚やエビの身をほぐして甘辛く炒り上げたものです。
特に江戸前寿司では芝エビの田麩のことをおぼろと呼ぶそうです。
ちらし寿司や太巻き寿司に欠かせない食材です。
ちなみに芝エビは東京都港区芝という地名に由来します。
昔は芝の海岸でたくさん獲れたそうです。
今では東京湾でほとんど芝エビは獲れません。
ところでおぼろに似た料理に「そぼろ」があります。
魚や肉を加熱してほぐした料理です。
鶏の挽き肉を使ったものを「鶏そぼろ」と呼び、
炒り卵のことを「卵そぼろ」と呼ぶこともあります。
ご飯の上にきれいにそぼろを敷き詰めると「そぼろ丼」になります。
色鮮やかな「三色そぼろ」はお弁当の定番です。
さて、おぼろとそぼろの違いは何でしょうか。
細かいのがおぼろで粗いのがそぼろという説があります。
粗いおぼろ、すなわち「粗(そ)おぼろ」がそぼろになったそうです。
また、いったん火を通してから身をほぐして炒るのがおぼろで、
生の素材から炒り上げるのがそぼろだという説もあります。
素材から作る「素(そ)おぼろ」がそぼろになったそうです。
もっともらしい説ですが、私はそのどちらでもないと考えます。
なぜならば、そぼろという言葉は昔から使われているからです。
たとえば「そぼろ髪」や「そぼ降る雨」といった表現があります。
そぼろは乱れた様子やばらばらの状態を表わす言葉です。
古語にも「戯(そぼ)る」という動詞があります。
現代語で「おどける」「ふざける」「たわむれる」という意味です。
ですから「そ」と「おぼろ」から「そぼろ」が生まれたわけではないと思います。
そぼろの語源はポルトガル語の「ソブラード」ではないかと言われています。
ソブラードとは余りものを意味する言葉だそうです。
長崎にポルトガル人の宣教師がやって来て肉を食べる習慣が普及しました。
日本人の味覚に合うように考案された豚肉料理がソブラードです。
豚肉と余りものの野菜を炒めた料理だったのではないかと考えられています。
それを受け継いだ長崎の郷土料理が「浦上そぼろ」です。
豚バラ肉、揚げ蒲鉾、コンニャク、ゴボウ、ニンジン、モヤシを炒めて作ります。
長崎では学校給食のメニューにもなっているそうです。
和風の五目キンピラと中華風の野菜炒めの中間のような料理でしょうか。
どことなく長崎ちゃんぽんの具にも似ています。
いずれにしても、そぼろと浦上そぼろはだいぶ異なる料理です。