
野菜や果実は、食用だけでなく薬用としても利用されますが、
ときに食用と薬用で名称が異なることがあります。
たとえば、アンズの種子は杏仁(きょうにん)と呼ばれます。
生薬として咳止めなどの効果があります。
じつは、杏仁は苦い薬なので昔から甘みをつけて服用しました。
それが杏仁豆腐の原型となりました。
温州ミカンの皮を干した生薬は陳皮(ちんぴ)と呼ばれます。
柑橘類独特の芳香があり、健胃剤に用いられます。
細かく刻んだ陳皮は七味唐辛子や御屠蘇にも入っています。
食欲不振を癒し、健康増進に効果があります。
トウモロコシのひげは南蛮毛(なんばんもう)という生薬です。
韓国では伝統的にトウモロコシひげ茶として飲まれています。
香ばしい風味とほかな甘みがあり、日本でも人気があります。
ちなみに英語ではコーン・シルク・ティーというそうです。
ナツメはドライフルーツとして親しまれている果実ですが、
生薬では大棗(たいそう)と呼ばれています。
強壮、鎮静、利尿の効果があり、漢方薬に用いられる他に、
参鶏湯などの薬膳料理にも欠かせません。
ショウガは香辛料として使うときは「しょうが」と呼ばれますが、
生薬のときは生姜と書いて「しょうきょう」と読みます。
根ショウガを乾燥させた生薬ですが、生のショウガと同様に、
発汗作用や健胃作用があり、食欲増進の効果があります。
ところで、野菜として有名でも生薬としてあまり知られていない
悪実(あくじつ)という変わった名称の生薬があります。
じつは、ゴボウの実のことを意味しますが、もっと正確にいうと、
ゴボウの種子を干したものです。
抗菌作用が強く、種子を煎って粉末にしたものを服用すると、
血糖値を下げたり血管を拡張したりする効果があるそうです。
それにしても、なぜそれほど人に役立つような生薬の名称が、
よりによって悪実なのでしょうか。
他にもっと好感を持てるような名称はなかったのでしょうか。
なぜ悪実ではなく良実にできなかったのでしょうか。
いろいろと調べてみても、その理油は明確にわかりませんが、
私の個人的な考えでは、音韻に因るものだと推察します。
漢和辞典によると、古代中国ではどうやら「悪」という字も
「薬」という字も同じ「やく」という発音だったようです。
ですから、悪実の「悪」は悪いという意味ではなく、
「薬」という意味ではなかったかと私は考えます。
本当は「悪実」という名前は、「薬実」の意味なのです。
そうであれば十分に納得できます。
それにしても、ゴボウほど誤解を受ける食材はありません。
ときには木の根に間違えられることもあります。
しかし、たとえ泥臭くてもゴボウは質実剛健な野菜です。
その価値は決して変わることはありません。