おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

フランスではフレンチトーストは何と呼ばれているのか

 

ダスティン・ホフマン主演の「クレイマークレイマー」という

古い映画があります。

 

ある日、妻が幼い息子を置いて家を出ていってしまい、

夫のホフマンが家事に育児に大奮闘するという物語です。

 

慣れない手つきで、朝食にフレンチトーストを作る場面が

描かれますが、卵を割ったときに殻が入ってしまいます。

 

それを息子に見られると、「一流のシェフは殻を混ぜて作る」と

言い訳をしますが、フレンチトーストは真っ黒焦げです。

 

もちろん一流のシェフであってもなくても、フレンチトーストを

作るときに卵の殻は入れません。

 

フレンチトーストは、卵を溶いて牛乳を混ぜたカスタード液に

パンを浸して、バターで両面をこんがりと焼き上げます。

 

表面はカリッとして、中はしっとりとしているのが

美味しいフレンチトーストの特徴です。

 

メイプルシロップや蜂蜜やホイップクリームなどを

かけて食べます。

 

初めからカスタード液に砂糖を入れて甘みをつける

焼き方もあります。

 

また、ナツメグやシナモンやバニラエッセンスを加えて、

洋菓子のような風味に仕上げることもあります。

 

パンは、厚めに切ったフランスパンやイギリスパンが

フレンチトーストに向いています。

 

レーズンやクルミが入ったパンが使われることもあり、

洋菓子風のフレンチトーストになります。

 

ところで、フレンチトーストは当然フランスで生まれたと

思われていますが、意外にもフランス発祥ではありません。

 

最も古い料理の文献によると、すでに古代ローマでは、

牛乳に浸したパンの料理が知られていました。

 

おそらくそれがフレンチトーストの起源ではないかと

考えられています。

 

その時代には、まだフランスという国家は存在せず、

ローマ帝国の属州「ガリア」と呼ばれていました。

 

ですから、フレンチトーストという呼称もありません。

では、何と呼ばれていたのでしょうか。

 

中世ヨーロッパでは、「黄金のトースト」または、

「黄金のパン」という輝かしい名称があります。

 

その一方で、面白いことに「貧乏騎士」という

不名誉な名称も広く知られていました。

 

イギリスには、「ウインザー城の貧乏騎士」という

名称が現在も残っています。

 

では、現在のフランスでは、フレンチトーストは

何と呼ばれているのでしょうか。

 

もちろんフレンチトーストとは呼びません。わざわざフランスで

「フランス風の」という必要がないからです。

 

フランスでは「失われたパン」を意味する「パン・ペルデュ」と

呼ばれています。

 

固くなってしまったパンは、美味しさが失われてしまいます。

それを蘇らせるので、この名がついたと考えられます。

 

実際に、焼きたてのパンをフレンチトーストにすることは少なく、

やや固くなったパンの方が、フレンチトーストに向いています。

 

ところで、「クレイマークレイマー」の結末では、幼い息子が

別れた妻に引き取られることになります。

 

ホフマンは息子との最後の朝食にフレンチトーストを作ります。

料理にもだいぶ慣れたせいか、手際よく焼き上げます。

 

こんがり焼いたフレンチトーストは美味しそうに見えますが、

どことなく悲しそうにも見えます。

 

親子の情愛とフレンチトーストをこれほど見事に描いた映画は、

「クレイマークレイマー」の他にありません。