
去年12月、イタリア料理がユネスコ無形文化遺産に
登録されました。
これまで「ナポリのピッツァ職人の技」が登録された
事例があります。
また、「イタリアのトリュフ探索と採取」が登録された
事例もあります。
特定の食文化が選ばれることは珍しくありませんが、
今回はイタリア料理全体です。
一つの国の料理全体が無形文化遺産になるのは、
世界でも初めてのことだそうです。
料理の伝統を文化的、社会的に融合させていると
いうのが登録決定の理由です。
調理法が世代を超えて受け継がれている点なども
ユネスコに高く評価されました。
イタリア料理は単に美味しいだけでなく、食べる人を
幸せにしてくれる貴重な食文化なのです。
ところで、世界にはいわゆる三大料理というものがあり、
フランス料理、中国料理、トルコ料理を指します。
その三大料理よりも先にイタリア料理が無形文化遺産に
選ばれたのはなぜでしょうか。
じつは、イタリアでは政府が中心となって国を挙げて
ユネスコに登録を働きかけました。
その背景には、美味しいものを分かち合いたいと願う
イタリア人気質があるのではないかと私は思います。
私は若い頃にイタリアを旅行したことがあります。
バスに揺られて田舎の村をめぐりました。
イタリアの旅を楽しむコツは、焦らないことです。
バスも電車も時間通りに動くことはありません。
どんなに遅れても気にしない心構えが大切です。
それでも驚かされることがいくつもあります。
日本では考えられないことが起こるのです。
私が乗っていたバスもそうでした。
遠くからおじいさんがバスに手を振っていると、
急にバスが路線から外れてそこに向かいます。
そして、バス停でもないのにおじいさんを乗せます。
まるでそうするのが当然であるかのように。
バスの乗客たちも、誰ひとり文句を言いません。
それどころか、顔見知りらしく挨拶を交わします。
やあ、おじいちゃん、元気そうだね、とか何とか。
もちろんイタリア語で。
乗ってきたおじいさんはワインを取り出して栓を抜き、
コップに注いで飲み始めます。
一杯飲み終わると、今度は周りの乗客にも勧めます。
次々とワインの回し飲みが始まります。
すると、他の乗客がチーズを取り出して切り分けます。
バスの中が突如としてバールに早変わりです。
皆とても楽しそうに飲んで食べて話しています。
啞然としている私にも声がかかります。
そこのお若いの、おまえさんもどうだい、とか何とか。
もちろんイタリア語で。
驚いたことに、バスの運転手にもワインを勧めます。
さすがに苦笑して断わっていましたが。
美味しいものを皆で分かち合うのがイタリア流です。
分かち合う喜びをよく知っている人々です。
その気質のおかげで、イタリア料理が無形文化遺産に
登録されたのではないでしょか。
イタリア料理が世界中の人々に愛され続けることを
きっとイタリア人は心から願っているはずです。