おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

「じゃばら」という名の幻の果実

 

「じゃばら」という名の柑橘類があります。

「幻の果実」とも呼ばれています。

 

なぜ幻なのかというと、一度失われかけた栽培が、

奇跡的に復活を遂げたからです。

 

もともと「じゃばら」が自生していた地域は、

和歌山県の北山村に限られていました。

 

じつは北山村は和歌山県に属していますが、

和歌山県から離れたところにあります。

 

三重県奈良県の県境にはさまれた

日本で唯一の飛び地の村です。

 

その北山村では「じゃばら」が江戸時代から

栽培されてきたと伝えられています。

 

それが、世界にも類のない新種の柑橘類として

認められたのは昭和時代です。

 

村では地元の特産品として本格的に栽培が始まり、

「じゃばら」と命名されました。

 

変わった名前ですが、「邪気を祓う」という言葉に

由来しているそうです。

 

普通「じゃばら」というと「蛇腹」を連想します。

蛇の腹部の構造や模様のことです。

 

私も初めて「じゃばら」という名を聞いたときは、

果皮が蛇腹の模様をしているのかと思いました。

 

しかし「じゃばら」の果皮は一般の柑橘類と変わらず、

見た目はユズによく似ています。

 

ただし、ユズよりはずっと果汁の量が多く、

強い酸味とほのかな苦みが特徴です。

 

地元の北山村では、邪気を祓う縁起物として親しまれ、

正月料理に欠かせない果実になっているそうです。

 

ところが、全国的にはまだまだ知名度が高くなく、

「じゃばら」の生産は苦難の時代が続きました。

 

一躍「じゃばら」の名が知られるようになったのは、

花粉症に効くという口コミが広まったことです。

 

おかげで「じゃばら」の生産量は飛躍的に伸び続け、

全国に「じゃばら」ブームを引き起こしました。

 

実際に「じゃばら」に含まれる「ナリルチン」という

フラボノイドには、抗アレルギー作用があります。

 

花粉症だけでなく、アトピー性皮膚炎や喘息などの

症状改善にも期待が寄せられています。

 

現在では「じゃばら」ブームも一段落しましたが、

幅広い商品開発が進められています。

 

果汁を使ったジュースやスイーツはもちろんのこと、

パウダーやサプリメントにも加工されています。

 

村の人々にとっては、昔の苦難が幻かもしれません。

そういう意味でも「幻の果実」と言えます。