おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

サンマのワタが美味しいのはなぜか

 

魚を調理するとき、通常はワタを取り除きます。

ワタとは魚の内臓のことです。

 

焼き魚にするにしても煮魚にするにしても、

ワタが残っていては美味しく仕上がりません。

 

ところが、例外的にワタが美味しい魚があります。

アユとサンマです。

 

アユは清流の河川に棲む淡水魚です。

川底の苔を食べて成長します。

 

そのせいか、まるで西瓜のような甘い香りがあり、

別名「香魚」とも呼ばれています。

 

アユを塩焼きにするときは、ワタを取りません。

お腹を押して腸内の消化物を出すだけです。

 

竹串を打って焼き上げ、蓼酢(たでず)を添えます。

蓼酢はアユの塩焼きに欠かせません。

 

アユのワタの塩辛は潤香(うるか)といいます。

独特のほろ苦みと風味があります。

 

一方、サンマもワタが美味しい魚です。

その理由は、消化器官の特徴にあります。

 

じつはサンマの消化器官には胃がありません。

食道と腸だけで構成されています。

 

小さな海洋プランクトンをエサとしているため、

高度な消化機能を持つ胃が要らないのです。

 

食べたエサはわずか20~30分で排出されます。

腸内にはほとんど消化物が残っていません。

 

そのため、他の魚と違ってワタに臭みがなく、

美味しく食べることができるのです。

 

塩焼きにするときも、もちろんワタを取りません。

苦みの中にもワタには深い味わいがあります。

 

ワタを取らないどころが、ワタの旨みを活かした

「ワタ焼き」という料理法さえあります。

 

サンマのワタを包丁で細かく叩き、生姜を効かせて

醤油と日本酒で煮詰めます。

 

それを裏漉しにかけて滑らかなタレを作り、

照り焼きの要領で塗りながら焼きます。

 

普通のサンマの塩焼きも美味しいのですが、

「ワタ焼き」は香りとコクが違います。

 

サンマのワタで焼いたサンマですから、

美味しくないはずがありません。

 

ぜひ、お試しいただきたいと思います。

サンマの新しい味が発見できます。