おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

昔はいくらでも田んぼで捕れた美味しい食材 その2 タニシ

 

希代の美食家として知られた北大路魯山人は、

肝吸虫が原因で亡くなりました。

 

肝吸虫は、淡水の魚介類を宿主とする寄生虫です。

ヒトの体内に入ると肝硬変を引き起こします。

 

北大路魯山人はタニシが大好物だったそうです。

しかも生煮えを好んで食べていました。

 

タニシに限らず、貝類は煮過ぎると硬くなります。

生煮えが最も美味しいと考えていたのでしょう。

 

そのため肝吸虫に感染してしまったのではないかと

伝えられてきました。

 

しかし近年の研究では、肝吸虫が宿主とするのは

食用のタニシではないことがわかってきました。

 

コイ、フナ、ウグイ、ホンモロコに寄生することから、

おそらくコイの洗いから感染したと推察されます。

 

それにしても、希代の美食家がなぜタニシのような

庶民的な食材を好んでいたのでしょうか。

 

明石のタイでも下関のフグでも丹波マツタケでも、

美食にふさわしい食材はいくらでもあります。

 

しかし、そうした高級食材に匹敵するタニシの真価を

北大路魯山人は見抜いていました。

 

美食は高価食材だけに限りません。

身近な食材にも至高の味があります。

 

北大路魯山人はそれを知っていたのです。

それが美食家たる所以です。

 

タニシは、淡水生の巻き貝の一種です。

世界中の淡水域に生息しています。

 

日本には4種類の食用タニシが生息し、

昔はいくらでも田んぼで捕れました。

 

捕獲したタニシは、しばらくきれいな水に

入れて泥を吐かせます。

 

茹で上げてから、竹串で身を取り出して、

酢味噌和えや辛子味噌和えにします。

 

貝殻ごと味噌汁に仕立てることもあり、

「つぼ汁」と呼ばれています。

 

シジミの味噌汁に比べると野趣あふれる

味わいがあるのが特徴です。

 

そんなに美味しいタニシですが、残念ながら

近年は田んぼで捕れなくなってきました。

 

昭和時代に農薬が急速に水田に普及し、

タニシの生息数が激減したせいです。

 

タニシは食性の幅が広く、何でも食べます。

つまり環境の変化に適応できる生物です。

 

ところが、そのタニシが激減しています。

絶滅危惧種にも指定されています。

 

タニシが生息できなくなると、タニシを食べる

生物にも影響が及びます。

 

人間もまたタニシを食べる生物ですから、

タニシの激減は由々しき問題です。

 

実際タニシを食べたことがある人は少なくなっています。

至高の美食であるにもかかわらずです。

 

きっと天国の北大路魯山人は激怒していることでしょう。

現代人は何と愚かであろうかと。