おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

昔はいくらでも田んぼで捕れた美味しい食材 その1 ドジョウ

 

島根県の民謡「安来節」は、ドジョウすくい踊りの

歌としてよく知られています。

 

歌に合わせてザルでドジョウをすくう滑稽な踊りは、

宴会の御座敷芸の定番です。

 

ドジョウは、流れの緩やかな小川や湖沼や水田の

泥底に生息しています。

 

実際にザルですくって捕獲することは少なく、

「ウエ」と呼ばれる竹カゴの仕掛けを使います。

 

徳利状の竹カゴの入り口に「返し」があるため、

一度入ると出られない仕組みになっています。

 

捕獲したドジョウは、しばらくきれいな水に

泳がせて泥を吐かせます。

 

ドジョウ料理の種類はそれほど多くなく、

家庭ではよくドジョウ汁に仕立てます。

 

ウナギに負けないほど滋養があり、

古くから庶民に親しまれてきました。

 

ドジョウ鍋も代表的な料理の一つですが、

じつは冬の鍋料理ではありません。

 

暑気を払うために汗をかきながら食べる

夏の鍋料理です。

 

ドジョウはゴボウとたいへん相性がよく、

ささがきにしたゴボウと一緒に煮ます。

 

仕上げに卵でとじたものを「柳川鍋」と呼び、

とじないものを「どぜう鍋」といいます。

 

また、ドジョウを開かずに丸ごと煮るものを

丸鍋」ともいいます。

 

柳川鍋の名前の由来は詳しくわかっていませんが、

最初に考案した料理店の屋号だという説が有力です。

 

また「どぜう」という表記は、江戸の駒形にあった

老舗の料理店が考えました。

 

旧仮名遣いでは「どぢやう」が正しい表記ですが、

四文字では縁起が悪いので三文字にしたそうです。

 

以来、他の料理店でも「どぜう」という表記が

一般に使われるようになっていきました。

 

ところで、昔はどこの田んぼにもドジョウがいましたが、

今では天然ものは少なくなりました。

 

昭和時代に農薬が急速に水田に普及したため、

ドジョウの生息数が激減したのです。

 

市場に流通しているドジョウのほとんどは、

食用に養殖されたものです。

 

鮮魚店の店先でドジョウが売られているのを

見かけることがあります。

 

生け簀に泳ぐドジョウは何とも愛嬌があります。

身をくねらせる姿は「踊り子」の異名を持ちます。

 

愛らしい姿を見ると簡単には料理できません。

美味しいとはいえ料理には勇気が要ります。

 

これほど料理の決断力を鈍らせる食材は、

ドジョウの他にありません。