おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

水田ほど生態系に優しい農法はないけれど

 

稲作は弥生時代に日本に伝わりましたが、

水田という農法も同時に伝わりました。

 

昭和初期に静岡県で発掘された登呂遺跡は、

日本最古の水田の遺跡です。

 

区画整備された水路や農機具などが出土し、

当時の集落の暮らし振りがわかります。

 

もちろん稲は水田以外でも栽培できます。

陸稲(おかぼ)といいます。

 

水田を作るのが難しい山間の傾斜地や

狭い土地で栽培されてきました。

 

しかし、水稲に比べて収穫量は少なく、

味も落ちるそうです。

 

その点、水田は土壌の栄養分だけでなく、

水に含まれる栄養分も行き渡ります。

 

しかも降水量にあまり左右されることなく、

安定的に水を調節できます。

 

水田はまた、多種多様な水棲生物にとって

大切な生活環境にもなっています。

 

ミジンコ、ミドリムシ、アメンボがいます。

タガメゲンゴロウ、ミズスマシがいます。

 

それらを捕食するカエルやザリガニがいます。

さらにそれらを捕食する水鳥がいます。

 

畦道ではヤマカカシがカエルを狙っています。

そのヤマカカシをトビが上空から狙います。

 

秋の稲刈りが終わった後の田んぼの畦道では

ときどきヘビが日向ぼっこをしています。

 

ヘビは変温動物ですから、寒くなってくると

日向ぼっこをして体を温めるのです。

 

田んぼのように広々と開けた場所では、

トビの格好の餌食になってしまいます。

 

スズメのような小型の鳥類は、実った稲を

食い荒らす害鳥として扱われてきました。

 

しかし、イネにつく害虫も食べてくれます。

じつは益鳥としての側面もあります。

 

持ちつ持たれつの関係を維持できることは

生物多様性の素晴らしいところです。

 

ところで、水田が地球環境に脅威を与えている

という新しい問題が出てきています。

 

それは水田から排出されるメタンガスの問題です。

大量のメタンガスが水田から出ているのです。

 

メタンガスは温室効果ガスの一つですが、

その威力は二酸化炭素の約25倍もあります。

 

意外と知られていませんが、二酸化炭素よりも

はるかに大きな脅威を持つ物質なのです。

 

メタンガスを生み出すのは「メタン菌」と

呼ばれる細菌です。

 

湖沼の堆積物や哺乳類の消化器官の中に生息し、

代謝物としてメタンガスを発生します。

 

メタン菌は嫌気性の細菌ですから、酸素の存在しない

環境にしか生息できません。

 

そのため、水田の表土よりもずっと深いところにある

酸素の届かない粘土質の地盤に生息しています。

 

メタン菌が発生したメタンガスは、水田の水や

稲の体内を通って大気に放出されます。

 

近年の研究では、大気に放出されるメタンガスの

約10パーセントは水田に由来といわれています。

 

水田はこれまで、気温上昇を抑制する効果があると

いわれてきました。

 

水田から蒸発する大量の水が大気から気化熱を奪い、

気温を下げてくれるからです。

 

しかし今では、地球温暖化を加速させる原因として、

世界中で対策が講じられています。

 

もちろん何千年も続いてきた稲作を止めることは

できませんし、止める必要もありません。

 

私たちの先祖が切り拓いてきた大切な水田を

守っていかなければなりません。

 

米食文化を維持し、同時にメタンガス排出問題を

解決することは簡単ではありません。

 

しかし、私たちには知恵があります。

知恵を活かす科学技術もあります。

 

何とか地球環境を守りつつ、美味しいお米を食べる

ことができることを願います。