おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

昔はなぜ甘酒が夏の飲みものだったのか

 

今日は立秋です。暦の上ではもう秋なのに、

まだまだ暑いという声をよく耳にします。

 

それはもっともなことかもしれません。

立秋は夏の暑さが頂点に達する日のことです。

 

この日からいよいよ秋が始まるスタート地点です。

ですから、まだまだ暑い日が続くのは当然です。

 

「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉がありますから、

秋の彼岸までは残暑を覚悟しなければなりません。

 

立秋の前日まで夏の土用の期間が続いていましたが、

土用には、土用ウナギや土用シジミがあります。

 

いずれも滋養を摂って夏を乗り切る食べものです。

では、立秋には何を食べるのでしょうか。

 

立秋にはとくに決まった食べものはありませんが、

お薦めは、甘酒です。

 

甘酒は冬の寒い季節に飲むものと思われがちですが、

じつは昔は夏の暑い季節によく飲まれていました。

 

栄養価が高く、夏バテ防止に効果があるからです。

「飲む点滴」とも呼ばれています。

 

しかし、夏に飲まれる理由はそれだけではありません。

もともと夏の宮中行事に振る舞われていたからです。

 

その伝統が継承され、京都を中心とした畿内地方では、

夏に甘酒を楽しむ習慣が根づいていました。

 

庶民にも甘酒が広まっていったのは江戸時代です。

天秤を担いだ甘酒売りが市中を売り歩いていました。

 

江戸は宮廷文化の影響を強く受けていませんが、

甘酒が夏の飲みものという認識はあったようです。

 

では、夏以外は一切甘酒を作らなかったのかというと、

そんなことはありません。

 

酒造りや味噌作りをするときに残る余剰の麹を使って

酒蔵や味噌蔵でも甘酒を作ることがありました。

 

日本酒は米を原料とし、味噌は大豆を原料としますが、

米も大豆も秋に収穫されます。

 

必然的に酒造りも味噌作りも秋に行われますが、

甘酒もまた秋から冬にかけて作られました。

 

最近は、自宅でも甘酒を作る人が増えてきました。

自分好みの甘酒を楽しむことができるからです。

 

お粥を炊いて麹を混ぜ、ひと晩保温するだけで出来ます。

そのため昔は甘酒を「一夜酒」と呼んでいました。

 

ただし、言葉で作り方を説明するのは簡単ですが、

実際に作るとなると温度管理がたいへんです。

 

保温するといっても、電気炊飯器では温度が高すぎ、

こたつでは温度が低すぎます。

 

私も何度となく失敗して、試行錯誤を繰り返しました。

その度に、麹が生きものだということを学びました。

 

麹を使わず、酒粕で甘酒を作る方法もありますが、

ほとんど甘みがなく、砂糖を加えなければなりません。

 

やはり麹の発酵によって自然に生み出される甘みが

甘酒の大きな魅力です。

 

まろやかで穏やかで、心を癒すような優しい甘みです。

ひと晩眠らずに温度管理しても作る価値があります。