
数年前からイタリア産の生ハムの輸入が途絶えています。
理由は、アフリカ豚熱がイタリアで発生しているからです。
アフリカ豚熱は、ブタやイノシシが感染する伝染病です。
有効なワクチンや治療法が確立していません。
ヒトに感染することはありませんが、ブタが感染すると
致死率が高く、養豚業に壊滅的な被害をもたらします。
現時点では、日本国内のブタに感染が確認されていませんが、
予防のためイタリア産の生ハムが輸入禁止になっています。
ここ数年の間に国内の在庫は尽きかけたようで、飲食店では
もうイタリア産の生ハムが提供されなくなっています。
それに代わって、スペイン産やフランス産の輸入量が増え、
国産の生ハムの生産量も増えています。
それぞれに個性があり、いずれも美味しい生ハムですが、
やはりイタリア産とは微妙に風味が異なります。
イタリア産の生ハムに慣れ親しんだ人々にとっては、
じつに寂しい限りです。
しかし、アフリカ豚熱は一向に終息する気配がなく、
いつ輸入が解禁されるか見通しは立っていません。
私たちは辛抱強く待つしかありませんが、それ以上に
苦しんでいるのがイタリアの生ハム職人です。
イタリア人は日本人に負けないほど手先が器用ですから、
イタリアはヨーロッパでも有数の職人の国です。
生ハム作りにも、もちろん熟練した職人がいます。
豚のモモ肉に塩を擦り込む職人です。
やや乱暴な言い方をすれば、生ハムは豚のモモ肉に
塩を擦り込んで乾燥させるだけの単純な食品です。
逆に言えば、それだけ塩の擦り込み方や乾燥のさせ方には、
繊細で高度な技術が要るのです。
文字通り手塩にかけた大切な生ハムが出荷できなければ、
生ハム職人にとってこれほど辛いことはありません。
その気持ちを理解して私たちは待つより他ありません。
いつかイタリア産の生ハムにまた会える日を。
思い起こせば、今から20年以上も前に狂牛病騒動があり、
日本はアメリカ産の牛肉の輸入を一時停止しました。
牛丼チェーン店の中には、オーストリア産などに切り替える
ところも多くありました。
しかし、アメリカ産の牛肉でなければ納得できる味を出せないと
頑固にこだわり続ける牛丼チェーン店もありました。
豚丼や親子丼のような代替メニューで何とか数年をしのぎ、
アメリカ産の牛肉を待ち続けました。
ついに数年後、アメリカ産の牛肉が輸入解禁になったときは、
待ちわびたファンが牛丼店の前に長い行列を作りました。
本当に美味しいものを望む人々はたとえ何年でも待ち続けます。
イタリア産の生ハムもきっとそうなると信じています。
いつかイタリア産の生ハムに会える日を楽しみにしています。
イタリアの生ハム職人に心から敬意を表して。