おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

生ハムとメロンは本当に合う食材なのか

 

昔から相性のよい食材の組み合わせは決まっています。

たとえばカモとネギは「カモネギ」と呼ばれる定番です。

 

マツタケスダチ、ハモと梅肉、サンマと大根おろし

麦飯ととろろ、ウナギと山椒もよく合います。

 

ちょっと意外なのは、ホヤとキュウリの組み合わせです。

キュウリがなければホヤを食うなとも言われています。

 

しかし、本当に合うのかどうか疑問に感じる食材もあります。

生ハムとメロンの組み合わせがそうです。

 

生ハムメロンは、イタリアとスペインの伝統的な料理です。

古くから前菜として供されてきました。

 

イタリア語では「プロシュート・エ・メローネ」と、

スペイン語では「メロン・コン・ハモン」といいます。

 

日本で生ハムメロンが知られるようになったのは、

比較的新しい時代のことです。

 

イタリア料理が日本でブームになったバブル期とも

言われています。

 

初めは、物珍しさもあって受け入れられましたが、

味に敏感な人たちは疑問に感じていました。

 

本当に生ハムメロンは美味しい料理なのかと。

別々に食べた方が美味しいのではないかと。

 

イタリア人にもスペイン人にも愛されているのに、

なぜ日本人の口に合わなかったのでしょうか。

 

その原因は、じつはメロンの種類にあります。

 

日本で生ハムメロンに使われるのはマスクメロンです。

芳醇な香りといい風味といい、最高峰のメロンです。

 

あまりにも完成度が高いフルーツですから、

じつは料理の食材には向かないのです。

 

単独で食べる方が美味しく、他の食材と組み合わせると

返って真価を損なってしまいます。

 

そのため、日本では生ハムメロンの評価が低いのです。

別々に食べた方か美味しいのはもっともです。

 

では、本場ではどんなメロンを使っているのでしょうか。

 

イタリアでもスペインでも、生ハムメロンに使われるのは、

カンタロープという種類のメロンです。

 

日本のマスクメロンに比べると、香りも甘みも穏やかですが、

それが却って生ハムの風味を引き立てます。

 

決して強く自己主張することなく、熟成した生ハムの旨みを

じっくり引き出す名脇役のメロンです。

 

しかし、日本ではカンタロープは馴染みの薄いメロンです。

日本では美味しい生ハムメロンが食べられないのでしょうか。

 

もちろん本場の生ハムメロンは現地で味わうのが一番ですが、

日本でも美味しい生ハムメロンを味わうことができます。

 

比較的カンタロープの風味に近いのが日本のマクワウリです。

ほのかな甘みと穏やかな香りが生ハムに適しています。

 

早摘みのプリンスメロンも生ハムメロンに向いています。

まだ熟していない爽やかさが生ハムによく合います。

 

それもそのはずです。プリンスメロンは、マクワウリと

カンタロープの後継品種の交配で生まれたメロンです。

 

ただし、ヨーロッパでは必ずしも生ハムメロンばかりが

珍重されるわけではありません。

 

イチジク、洋ナシ、アンズ、ベリー類などのフルーツを

生ハムに組み合わせることがあります。

 

フルーツの甘味と酸味に生ハムの塩味がじつによく合います。

メロンだけにこだわる必要はありません。

 

生ハムは日本でも生産されていますが、ヨーロッパ産よりも

風味がまろやかで、日本人好みに作られています。

 

ですから、日本の食材との相性は抜群です。

生ハム料理は和食にも取り入れられています。

 

薄く切ったダイコンやキュウリを生ハムに挟むと、

シャキシャキとした食感が楽しめます。

 

カイワレやスライスしたタマネギを生ハムで巻くと、

軽やかな辛みが味わえます。

 

さっと茹でた菜の花を生ハムで巻くと、見た目も美しく、

春らしいほろ苦さが感じられます。

 

創作意欲をかき立てられるという点において、

生ハムほど魅力的な食材はありません。