おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

コーヒー牛乳が日本で愛された理由

 

フランスのカフェオーレやイタリアのカフェラッテのように、

コーヒーに牛乳を入れる飲み方は古くから知られています。

 

牛乳はコーヒーの苦みを和らげてまろやかな風味にし、

深いコクを生み出してくれます。

 

偶然にも、日本でコーヒーが飲まれるようになった時期と

牛乳が飲まれるようになった時期は重なっています。

 

幕末に開港して以来、外国人が日本の住むようになり、

コーヒーも牛乳も国内に普及していきました。

 

それ以前も牛乳はありましたが、滋養強壮の薬として

ごく一部の人に飲まれているに過ぎません。

 

明治時代になると、都市部の近郊で酪農を始める人が

急速に増えてきました。

 

小説「野菊の墓」で知られる伊藤左千夫もその一人です。

当時まだ珍しかった「牛乳業」で成功しました。

 

しかし当時は、牛乳を嫌う人も少なくありませんでした。

その理由は、あの牛乳独特の匂いに慣れていないことです。

 

そこで、牛乳を美味しく飲む方法が考案されました。

その一つが「コーヒー牛乳」です。

 

香り豊かなコーヒーが牛乳の匂いを消して、

深い味わいを生み出してくれます。

 

カフェオーレカフェラッテは、牛乳がコーヒーを美味しく

してくれますが、コーヒー牛乳はその逆です。

 

コーヒーが牛乳を美味しくしてくれるのです。

それが日本で愛された理由だと思います。

 

コーヒー牛乳は鉄道の駅で駅弁と一緒に販売されましたが、

それが人気を博して全国に広まりました。

 

もちろん、他にも人気を博した理由があります。

全国の銭湯で売られたこともその一つです。

 

やはりお風呂上りにはコーヒー牛乳が最高です。

誰もが腰に手を当てて飲みたくなります。

 

さらに、牛乳配達の制度が広く普及していたことも、

コーヒー牛乳には追い風となりました。

 

当時のコーヒーは喫茶店で飲むものであり、

家庭で淹れることはありませんでした。

 

コーヒーが一般の家庭で飲まれるようになったのは、

インスタントコーヒーが登場してからのことです。

 

しかし牛乳配達のおかげで、喫茶店に行かなくても、

コーヒーが、いやコーヒー牛乳が飲めました。

 

それがコーヒー牛乳の人気の秘密であり、

愛された理由ではないでしょうか。

 

ところが近年は、牛乳配達を利用する人が激減しています。

昔ながらの牛乳瓶に入ったコーヒー牛乳も見なくなりました。

 

その一方で、おしゃれなコーヒーショップは増え続け、

多彩なコーヒーが提供されています。

 

コーヒー牛乳はすっかり昔のものになってしまいましたが、

懐かしい味であることに変わりはありません。