「夢オチ」と呼ばれる物語があります。
それまでの出来事が、じつは全て夢だったという物語です。
古来、世界中の文学作品に用いられてきました。
楽しい体験が「何だ、夢だったのか」と落胆するときと、
怖い体験が「夢でよかった」と安堵するときがあります。
世界最古の夢オチと言われているのが「一炊の夢」です。
「邯鄲の枕」としても知られています。
ある若者が趙の都の邯鄲に赴き、そこで老人に出会います。
若者はその老人から夢を叶える枕を授かります。
その枕を使うと、不思議なことに幸運が次々と訪れて、
若者はまたたく間に立身出世を遂げます。
家族にも恵まれて子孫は繁栄し、この上ない栄華を極めます。
そして多くの人々に敬愛され、幸福のうちに長寿を全うします。
ところが、それらは全て夢でした。
はっと目が覚めると、先ほど火にかけておいた粟粥が、
まだ煮上がってさえいませんでした。
長い生涯のように思えても、じつは粟粥を炊く間の
「一炊の夢」にすぎなかったのです。
粟粥とは、粟(あわ)を米に混ぜて炊くお粥のことです。
粟は、麦や稗(ひえ)や黍(きび)と並ぶ穀物です。
穀物の中では、比較的クセがなく淡い風味が特徴なので、
「あわ」と呼ばれました。
昔は米が十分に収穫できなかったので、穀物を混ぜて
ご飯を炊いていました。いわゆる雑穀米です。
白米を食べることができたのは身分の高い人々だけでした。
一般の庶民は雑穀米を食べていました。
しかし、現代では雑穀米が見直されてきています。
穀物は栄養が豊富で、健康的な食材だからです。
雑穀米だけでなく、スープやサラダにも用いられ、
ダイエット食品として活躍しています。
穀物特有のプチプチした食感やモチモチした食感を
様々な料理で楽しむことができます。
最近では、キヌアやアマランサスなどの新しい穀物も
人気が急上昇しています。
昔の穀物の料理方法は、しばらく水に浸してから
ことこと煮るのが基本でした。
しかし、今は電子レンジという強い味方がいます。
短時間で穀物が料理できます。
もし「一炊の夢」の粟粥も電子レンジを使っていれば、
一生が終わる前に煮上がっていたかもしれません。