おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

イヌイットの人々の食事はなぜ健康的なのか

 

北米大陸の氷雪地帯に暮らすイヌイットの人々は、

昔から野菜を食べる習慣がありません。

 

極寒の地域では、植物が十分に生育することがなく、

野菜を入手することができないからです。

 

比較的寒さに強く、夏の時期に収穫できる

ブルーベリーなどを食べていました。

 

しかしそれだけではビタミンが不足してしまいます。

どのように健康を維持していたのでしょうか。

 

その秘密は、動物の生肉を食べる習慣にあります。

 

アザラシ、セイウチ、クジラなどの海獣の生肉や、

ホッキョクグマ、トナカイの生肉を食べていました。

 

動物の肉を生で食べるのは、いくつか理由があります。

火をおこすのがたいへんであることもその一つです。

 

しかし一番大きな理由は、生肉に含まれる栄養です。

ビタミンCをはじめ、豊富な栄養があるからです。

 

それらの多くは加熱すると失われてしまいますが、

生で食べることによって十分に摂取できます。

 

たとえ野菜を食べることができなくても、

それに等しい栄養が得られるのです。

 

ただし、捕獲した獲物の肉はすぐには食べません。

寄生虫の危険性があるからです。

 

数日間、獲物を氷上に置いて凍らせます。

そうすることで寄生虫は死滅します。

 

アイヌの鮭料理の「ルイベ」によく似ています。

長年の知恵によって生まれた食文化です。

 

もちろん火を使った料理があることはありますが、

海水を利用した「塩ゆで」くらいだそうです。

 

シンプルな食生活に思われるかもしれませんが、

イヌイットの人々はそれを大切に守ってきました。

 

ところが、今ではイヌイットの人々の暮らしも変わり、

さまざまな食料品を入手できるようになりました。

 

パン、乳製品、野菜、果実だけでなく、

地元にない肉類や魚介類も手に入ります。

 

イヌイットの人々がこれまで食べたことがない

甘い食品や高カロリーの食品もあります。

 

そのため、肥満や高血圧のような生活習慣病が増えて

大きな社会問題になっています。

 

とくにアルコール飲料流入は深刻です。

依存症になってしまう人が激増しています。

 

もともとイヌイットの人々はお酒を飲みません。

極寒では酵母菌がアルコール発酵しないからです。

 

現代と比べると、昔のイヌイットの人々の方が、

ずっと健康的に暮らしていたかもしれません。

 

生活の近代化はよいことばかりではありません。

健康的な食文化が失われてしまうこともあります。

 

 

そうかと言って、厳しい環境の下で伝統を守りながら

暮らしていくことは容易なことではありません。

 

難しいことですが、伝統的な食文化を守りつつも、

高い生活水準を追及しなければならないのです。