おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

だちょうのたまごがころがった

 「だちょうのたまごがころがった」は、次の3編の短い物語を収録しています。テーマは「ころがり」です。

 

  1. だちょうのたまごがころがった
  2. どんぐりころり ころころころ
  3. おいもが ころり ころころり

 

 「だちょうのたまごがころがった」は、全十二連、四十八行、七五調の詩の形式の物語です。あるとき、だちょうの卵がころころところがります。だちょうの母さんがあわてて卵を追いかけますが、なかなか追いつけません。卵は坂道を下り、峠を越えてころがり続けます。母さんは途中でキツネさんやカメさんに卵の行方を尋ねながら懸命に追いかけます。

 ようやく卵は、ネズミさんが住む穴に落ちて止まります。そしてひびが入って、中からだちょうの赤ちゃんがとび出してきます。やっと母さんはひと安心しますが、物語はそれで終わりません。さて、どうなってしまうのでしょうか。

 全編を通してスピード感を重視し、リズミカルでコミカルに表現しました。ぜひ幼い子どもたちに読み聞かせてあげてください。次の展開がどうなるかハラハラドキドキしながら、きっと楽しんでもらえると思います。

 「どんぐりころり ころころころ」は、全五連、三十五行、七五調の詩の形式の物語です。四季を通して野原の木々が移ろいゆく様子を描きました。主人公はもちろんどんぐりです。秋には「ころころころ」ところがります。冬には「すやすやすや」と眠ります。春には「にょきにょきにょき」と芽が出ます。夏には「さわさわさわ」と若葉が風に揺れます。そしてまた秋には「ころころころ」ところがります。

 野原にはリスさんも暮らしています。秋には「かりかりかり」とどんぐりを食べます。冬にはどんぐりと一緒に「すやすやすや」と眠ります。春には「きょろきょろきょろ」と目を覚まします。夏には「ちょろちょろちょろ」と木々を飛び跳ねます。そしてまた秋には「かりかりかり」とどんぐりを食べます。

 日本語はじつに豊かな擬音語と擬態語に恵まれています。おかげで幼い子どもたちは、味わい深い四季の情景を思い浮かべることができます。ぜひゆっくりと読み聞かせていただきたい作品です。

 

 「おいもが ころり ころころり」は、全二十八連、五十六行、七五調の詩の形式の物語です。二行ずつ表記したのは、ソネット形式を参考にしたからです。ソネットとは、近世のヨーロッパ文学で生まれた定型詩です。「十四行詩」とも呼ばれ、二行ずつ七連で構成されています。二行ごとに意味のまとまりや音節のまとまりがあるのが特徴です。シェイクスピアソネットが最もよく知られていますが、韻律が美しく音楽的なだけでなく、表現が簡潔で詩の展開がじつにあざやかに感じられます。私もそれに倣って、物語を二行ずつ表記しました。

 あるお寺の和尚さんが、村の長者さまのご法要に招かれて小僧たちを連れて行くことになりました。食事のときに小僧たちが無作法をしないように、和尚さんは「何でもわしの真似をしなさい」と前もって言い渡してあります。お膳が運ばれてきて、和尚さんがお箸を取ると小僧たちも真似をします。和尚さんが「いただきます」と言うと小僧たちも真似をします。和尚さんの言いつけをちゃんと守って行儀よくしています。

 ところが、和尚さんが里芋の煮ころがしをお箸でつまもうとすると、お芋が滑って器からころがり落ちてしまいました。すると、それを見た小僧たちも真似をしてお芋を器からころがします。あわてた和尚さんが再びお芋をお箸でつまもうとすると、今度はお膳からころがり落ちてしまいました。小僧たちも真似をしてお芋をお膳からころがします。和尚さんは必死にお芋をつまもうとしますが、お芋は畳の上をころがり続け、小僧たちも真似をしてお芋を畳の上にころがし続けます。

 やはり、お箸で里芋の煮ころがしをつまむのは難しいようですね。

 よくお腹の赤ちゃんにモーツァルトの音楽を聴かせると胎教によいと言われます。生まれたばかりの赤ちゃんを寝かしつけるときにも適していると言われます。その理由は、モーツアルトの音楽の中に、ある一定の「揺らぎ」が繰り返し現れるからだそうです。その「揺らぎ」の繰り返しが、赤ちゃんの脳に安らぎを与えているのではないかと考えられています。

 たしかに、同じ旋律や同じ音韻の繰り返しには、安心感や親近感を覚えます。乳幼児向けの童謡や童話に、繰り返しの表現が多く使われているのはそのためだと思われます。

 日本の詩歌には古くから七五調や五七調や七七調の韻律がありました。近代になると、八五調や八六調や八七調も現れます。それらは作曲することを前提にした韻律であり、歌唱に向いているとされています。

 私が書いた3編の詩の形式の物語はいずれも七五調です。就学前の児童にも読みやすいように全てひらがなで表記しました。まだ字が読めない幼い子どもたちには、ぜひ大人の方が読み聞かせてあげてください。物語の面白さは、内容の面白さだけではないと私は考えています。読んだときに感じる心地よいリズムや言葉の面白さも大きな要因だと思います。

 楽しんでいただければ幸いです。

この続きはcodocで購入