おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

おむすび食べたお殿さま

 「おむすび食べたお殿さま」は創作童話です。子どもにも大人にも読んでいただきたい物語です。

 昔々あるところに食いしん坊でわがままなお殿さまがいました。ある日、お殿さまは村に「おふれ」を出して、今まで食べたことのない美味しい食べものを差し出すように命じました。困ってしまった村人たちを助けるために、村の若者の彦六がお城に向かいます。さて、彦六は何をお殿さまに差し上げるのでしょうか。

 と言っても、「おむすび食べたお殿さま」という題名から、すでに読む前にその答えがわかってしまいますが、なぜ、ありふれたおむすびがお殿さまにとって今まで食べたことのない美味しい食べものなのでしょうか。ぜひ物語を読んで、その謎を解いていただきたいと思います。

 ところで、おむすびとおにぎりは違うものなのでしょうか。じつは呼び名が異なるだけで、両者は同じものです。昔は地域差があり、主に東日本ではおにぎりと呼ばれ、西日本ではおむすびと呼ばれるといわれていましたが、現在ではほとんど地域差がなくなってきています。

 また、形状の違いによって呼び名が違うという説もあります。丸い形がおにぎりであり、三角形がおむすびであるという説です。しかし、必ずしもそうとは限りません。逆の場合もあります。たとえば「おむすびころりん」の民話に出てくるおむすびです。三角形のおむすびではうまく転がることができません。ころころ転がるには、やはり丸い形でなくてはなりません。

 おむすびの歴史は古く、その語源は高御産巣日神(たかみむすびのかみ)に由来すると考えられます。万物の生成を司る創造の神様です。この神様に捧げられた供物が、ご飯を炊いてむすんだものでしたが、おそらく、それが山型だったのではないでしょうか。古来、日本には山岳信仰があり、山には神様が宿ると信じられてきました。それがおむすびの形にも影響しているようです。

 「おむすび食べたお殿さま」では、おむすびが三角形に作られるようになった話を紹介しています。もちろん史実ではなく、あくまで童話の世界の話です。「なるほど、それは面白い」と笑っていただければ幸いです。

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