大国主命(おおくにぬしのみこと)が白兎を助ける話です。
海を渡ることができません。
そこで白ウサギはワニをだましてこう言いました。
君たちワニと私たち白ウサギの数比べをしよう。
君たちワニが何頭いるか数えてあげるから
海面に一列に並んでごらん。
ワニたちは白ウサギの数に負けるものかと仲間を呼び集め、
白ウサギはワニの頭数を数えるふりをして、
ワニの背を次々と跳んで海を渡りました。
ところが、最後のワニを跳んで海岸に着くとき、
嬉しさのあまり、思わずこう叫びました。
やーい、だまされたね。
数比べなんて嘘だよ。
怒ったワニたちは白ウサギを捕まえて、
その毛皮を剥いでしまいました。
白ウサギがあまりの痛みに泣いていると、
そこに大国主命が通りかかりました。
大国主命は白ウサギの体を真水で洗わせて、
蒲の穂の上に横たわるように言いました。
たちまち白ウサギの体に白い毛が生えてきて
すっかり元の姿に戻りました。
たいへんよく知られている神話ですから、
読んだことがある人も多いと思います。
しかしこの神話、どこか変だと思いませんか。
熱帯のワニがなぜ日本にいるのでしょうか。
そもそもワニは淡水域に生息する動物です。
なぜ海にいるのでしょうか。
じつは、このワニは爬虫類のワニではありません。
昔はサメのことをワニと呼んでいました。
漢字では「鰐」ではなく、「和邇」と書きます。
現在でも、サメをワニと呼ぶ地方があります。
サメを使った料理はワニ料理と呼ばれています。
有名なのは、広島県内陸部の備北地域です。
古くからワニ料理が郷土料理になっています。
海から離れた内陸でサメが食用とされた理由は、
サメが多くの尿素を含んでいるからです。
腐敗を防ぎ、常温でも長期間の保存が可能です。
10日から2週間は刺身でも食べられるそうです。
昔は冷蔵や冷凍の技術がなく、内陸の人にとって
魚といえば、干物か塩漬けしかありません。
ですから、サメはたいへん貴重な海産物です。
その伝統は今も守られています。