おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

100年先に伝えたい日本が愛する美味しい中華2

「100年先に伝えたい日本が愛する美味しい中華2」は、次の10品を紹介しています。

 

「酢豚」

「北京ダック」

「大根餅」

冷やし中華

「東坡肉」

「エビチリ」

「杏仁豆腐」

棒棒鶏

「フカヒレスープ」

「担担麵」

 

 中国には広大な国土に多くの人々が住み、長い歴史の中で独自の多様な料理を生み出してきました。「中華料理」または「中国料理」と呼ばれ、海外でも広く食されています。日本や韓国やベトナムなどの周辺国の食文化にも大きな影響を与えました。

 中華料理には古くから発達した料理技術がありますが、高い技術ばかりではなく、ありとあらゆる食材を使いこなすのが大きな特徴です。食材の幅の広さは料理の幅に広さにつながり、中華料理の大きな魅力になっています。

 ひと口に中華料理といっても広範囲に及びますから、大きく「四大菜系」に分類され、さらに細かく「八大菜系」に分類されることがあります。四大菜系とは、「山東料理」「江蘇料理」「広東料理」「四川料理」であり、八大采系とは、「浙江料理」「安徽料理」「福建料理」「湖南料理」がこれに加わります。ちなみに日本では、「北京料理」「上海料理」「広東料理」「四川料理」を「四大中華料理」と呼んでいます。

 日本にはかなり古い時代から中華料理が伝わり、長崎の「卓袱料理」や精進料理の一種である「普茶料理」などの原型となりました。しかし、それらは今では日本料理に同化しているので、敢えて中華料理とはいいません。現在の中華料理は、明治時代になってから日本に広まりました。幕末の開国によって、横浜や神戸や長崎には、「中華街」「南京町」「唐人屋敷」と呼ばれる中国出身の人々の居住地域、いわゆる「チャイナタウン」が形成されました。

 中国語は方言の差が大きいので、出身地が違うと言葉が通じないことは珍しいことではありません。そのため、同郷出身者が助け合いながら結束して暮らす傾向が見られます。当然、中華街などで提供される中華料理にも、大きな地域差が表れます。その特徴を日本人が知るためにも、四大中華料理の分類が必要だったのかもしれません。

 北京料理は、寒冷な華北地方の料理です。稲が生育しにくいために、米よりも小麦を使った料理が特徴です。餃子(チャオズ)や饅頭(マントウ)や包子(パオズ)は、小麦粉を練った生地で作られた料理です。また、北方の遊牧民族の影響を受けて、肉料理も発達していきました。有名な「北京ダック」は代表的な北京料理です。

 上海料理は、周辺の江蘇料理浙江料理の流れを汲んで成立しました。江蘇省浙江省は「魚米之郷」と呼ばれ、魚介類や農産物が豊かな一帯です。多彩な食材を使い、甘酢や黒酢を多用した洗練された料理が特徴です。「小籠包」や「八宝菜」などは、上海料理を代表する料理です。

 広東料理は食材の種類がたいへん多いのが特徴です。昔は「机と椅子以外、足がついているものは何でも食べる」といわれていましたが、今では「飛行機以外、空を飛ぶものは何でも、潜水艦以外、泳ぐものは何でも食べる」ともいわれています。一般に、素材の持ち味を活かして薄めに味つけして料理します。「フカヒレスープ」や「焼売」などが知られています。

 四川料理は、唐辛子や花椒などの香辛料をたっぷり使った辛い料理です。代表的な料理は、何といっても「麻婆豆腐」です。ただ辛いだけではなく、味わい深い料理です。他にも「回鍋肉」「青椒肉絲」「棒棒鶏」などがありますが、そのほとんどは「四川料理の父」と称された陳建民氏が日本に紹介しました。

 いずれの料理も、当初は中華料理を食べ慣れていない日本人の口にあまり合いませんでしたが、少しずつ日本人好みに改良が加えられました。そのため、現在日本で食べられている中華料理は、本場中国の料理と大きく異なっているものも少なくありません。本場と区別するために、日本で食べる料理を「中華料理」、中国で食べる料理を「中国料理」と呼び分けることもあります。

 中国でも同様に、日本風にアレンジした中華料理のことを「日式」と呼んでいます。ラーメンは日式中華料理の典型です。今では、逆輸入された日本のラーメンは中国でも人気が高く、「日式拉麺」と称されています。国を越えて美味しい料理を分かち合うことは、たいへん素晴らしいことです。

 今回刊行するに当たって、題名を「世界が愛する中国料理」ではなく「日本が愛する中華料理」としたのは、陳建民氏をはじめとして、日本に多くの美味しい中国料理を紹介してくれた中国出身の料理人の方々に心から敬意を表したいと思ったからです。

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