「100年先に伝えたい日本の美味しい揚物料理1」は、次の8品を紹介しています。
「コロッケ」
「大学芋」
「トンカツ」
「竜田揚げ」
「エビフライ」
「天婦羅」
「春巻き」
「カキフライ」
植物油を使った料理が美味しいのは、まろやかな味わいと豊かな香りと滑らかな食感が生まれるからです。植物油にはじつに多くの種類があり、それぞれ個性が異なりますが、加熱して料理にするとその個性が一層際立ちます。
日本の家庭用植物油で最も多く使われているのは「菜種油」です。国内消費量の約四割を占めています。淡白であっさりした風味が特徴であり、固まりにくく、高温にも強い植物油です。「キャノーラ油」とも呼ばれ、主にカナダから輸入されています。
「大豆油」も日本でよく使われている植物油です。国内消費量は、菜種油に次いで第二位です。独特の旨みとコクがあり、いかにも大豆らしい風味が感じられます。色が薄く香りが少ないので「てんぷら油」に用いられます。原料の大豆はアメリカやブラジルから輸入されています。
「綿実油」は、綿の種子を原料にした植物油です。加熱しても比較的酸化しにくいので揚物料理に適しています。今は大豆油に押されて生産量が減り、家庭ではあまり使われなくなりましたが、食品製造に多く使われ、スナック菓子やツナ缶に利用されています。
日本で最も古くから食用とされてきた植物油は、「胡麻油」です。すでに奈良時代には焙煎胡麻油が生産されていました。色が濃く、胡麻独特の風味が強いのが特徴です。江戸時代になって菜種の栽培が普及するようになるまで、揚物に使われる植物油といえば、胡麻油が主流でした。
揚物料理は、焼物や煮物に比べると歴史が新しい料理ですが、それには理由があります。食用油がかつて高価な食材だったからです。昔の油は食用でもあり、灯火の燃料用でもありました。そのため、食用に十分な量を確保することは難しく、揚物は高貴な人々が食べる特別な料理でした。一般の庶民に揚物が普及したのは、食用油が安定的に供給されるようになった江戸時代以降のことです。とくに江戸で大流行した天婦羅は、その後の日本料理における揚物に大きな影響を与えました。
明治時代になると、西洋からさまざまな料理が伝えられ、揚物料理の幅も大きく広がりました。それまで日本でほとんど使われたことがなかったラード(豚脂)、ヘット(牛脂)などの獣脂やバターなどの乳製品を使った揚物料理が紹介されました。しかし、やはり日本人が好む揚物は、たっぷりの植物油で揚げた、いわゆる「ディープフライ」と呼ばれる技法によって揚げられた揚物料理です。その源流は、明らかに天婦羅にあることは間違いありません。