おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

100年先に伝えたい世界が愛するイタリア料理2

「100年先に伝えたい世界が愛するイタリア料理2」は、次の9品のイタリア料理を紹介しています。

 

「ミラノ風リゾット」

「ジェノヴェーゼ」

カポナータ

「ボロネーゼ」

「カプレーゼ」

「バーニャカウダ」

ブルスケッタ

アクアパッツァ

「ミネストローネ」

 

 イタリア料理は、日本でも高い人気がありますが、その理由は、日本料理とイタリア料理に多くの共通点があるからではないでしょうか。両国とも長い食文化の歴史を持ち、独自の料理を生み出してきました。

 イタリア半島は地中海に囲まれ、日本と同じように豊かな海産物に恵まれています。素材の持ち味を活かし、手を加え過ぎない料理方法も日本とよく似ています。また、南北に長く伸びた国土も日本と同じです。北から南までさまざまな気候と風土があり、各地域に根差した郷土料理が古くから伝承されています。故郷を愛し、郷土料理を大切に守る文化も共通しています。

 イタリアが統一国家として成立したのは、じつはたいへん新しく、ちょうど日本が明治維新を迎えようとしていた時代と重なります。それ以前は「サルデーニャ王国」「パルマ公国」「トスカーナ大公国」などの独立国家が乱立していました。その名残で郷土愛が強いのかもしれません。もっとも、日本も明治時代になってようやく中央集権国家が樹立しているので、イタリアと事情はあまり変わっていません。

 麺好きなところも日本とイタリアはよく似ています。日本には、「そば」「うどん」「そうめん」「きしめん」「ひやむぎ」「ほうとう」などの多くの麺料理がありますが、イタリアも負けていません。負けていないというより、イタリアの方がパスタの種類の多様さにかけては、はるかに日本を凌いでいます。ただ種類が多いだけでなく、パスタを美味しく料理する技術にも長けています。

 多彩なパスタ料理の中で、イタリア人が最も好むのは、手の込んだ豪勢なパスタではなく、意外にもトマトソースやバジリコだけを使った簡素なパスタです。日本人が豪勢な麺料理よりも「もりそば」や「すうどん」などの簡素な麺をこよなく愛するのとどこか通じるところがあります。

 リュック・ベッソン監督の「グラン・ブルー」という映画の中に、ジャン・レノが演じる尊大で陽気なイタリア人ダイバーが登場します。海辺のレストランで海の幸のパスタを食べているところを危うくママンに見つかりそうになって慌てる場面があります。「食べたわね」とママンに追及され、「食べていない」と何とか誤魔化します。どうやら、ママンが作ったパスタ以外に食べてはいけないことになっているようです。

 もちろんすべてのイタリア人がそうした規則に縛られているわけではありませんが、イタリアのママンの多くは、美味しいパスタ料理を家族に食べさせることが自身の大切な義務であると感じており、イタリア人の多くは、ママンが作ったパスタ料理が世界中で一番美味しいと信じているようです。日本人にも、忘れられない「おふくろの味」がありますから、イタリア人の気持ちはたいへんよくわかります。

 ところで、イタリア料理に欠かせない食材といえば、オリーヴオイルとトマトです。日本料理に味噌と醤油が欠かせないのと同じくらい重用されています。オリーヴオイルは紀元前から使われている古い食材ですが、トマトは比較的歴史が浅い食材です。アメリカ大陸からヨーロッパに伝わった当初は、トマトには毒があって食べてはいけないと考えられていました。そのため百年以上もの間ずっと食用ではなく、観賞用として栽培されてきました。

 イタリアで最初にトマトを食べたのは、貧しい庭師だったといわれています。貴族の庭園の手入れをしているときにトマトの実が生っているのを見つけました。空腹のあまり、飢えて死ぬのも毒で死ぬのも同じだと覚悟して食べてみました。ところがトマトに毒はなく、むしろたいへん美味しい実であることがわかりました。それ以来、品種改良が重ねられて、トマトはイタリア料理になくてはならない食材になりました。現在のイタリア料理があるのも、貧しい庭師のおかげかもしれません。

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