おいしいことば

四季の料理と食材は美しい名を持っています。おいしいことばを探してみましょう。

100年先に伝えたい日本の美味しい寿司料理

「100年先に伝えたい日本の美味しい寿司料理」は、次の11品の寿司料理を紹介しています。

 

江戸前寿司

「ふな寿司」

「ちらし寿司」

「朴葉寿司」

「稲荷寿司」

かぶら寿司

「バッテラ」

「手こね寿司」

鉄火巻き」

「柿の葉寿司」

鱒寿司

 

 寿司は日本料理の花です。握り寿司、ちらし寿司、巻き寿司など、じつに多彩で絢爛豪華な寿司料理があり、日本独自の食文化を形成しています。しかし寿司の起源は、じつは日本ではなく、中国南部や東南アジアであるといわれています。稲作が発祥した地域でもあるからです。

 米飯を発酵させて魚を保存する技術は、かなり早い時代に日本に伝播し、遅くとも奈良時代までには日本各地で寿司が作られるようになっていました。こうした寿司は「なれ寿司」と呼ばれ、長期間の乳酸発酵によって酸味と風味を醸し出していました。琵琶湖の特産である「ふな寿司」がその例です。

 米飯はあくまで発酵を促す原料に過ぎませんが、やがて魚と一緒に米飯も食べるようになりました。捨ててしまってはもったいないという実利的な考え方が広まったということもありますが、長期間の発酵を待たずに食べてみると、米飯は単なる副次的な原料ではなく、十分に食用に適していることがわかったのではないかとも考えられます。

 それによって、寿司は保存食品としての役割を超えて、美味しい料理として洗練されていきます。発酵を短くすると酸味が弱まるので、酒や麹や酒粕を添加して発酵を早める工夫が施されました。その結果、ついにたどり着いたのが、酢を加える方法でした。この方法によって作られる寿司は、「なれ寿司」に対して「早寿司」と呼ばれます。短時間で早く作ることができるからです。

 酢は、「世界最古の調味料」といわれるほど歴史が古く、紀元前から世界中で醸造されてきました。酢酸菌の作用によってアルコールが自然に酢に変わるので、酒を醸造する技術があれば、酢を醸造することは難しいことではありません。

 世界には果実や穀物を原料とした多様な酢がありますが、日本では主に米を原料にした「米酢」が作られてきました。しかし昔から米は貴重ですから、当然酢も高価な調味料でした。簡単に手に入りません。庶民に広く酢が普及するようになったのは江戸時代のことです。

 寿司を作るには、まず酢飯を作らなければなりません。酢に少量の塩と砂糖を加えた「合わせ酢」を用意し、炊きたてのご飯に混ぜ合わせます。これを寿司職人は「シャリ」と呼びます。もともと仏様の尊い遺骨を意味する「舎利」が語源ですが、それほど酢飯はありがたいものなのです。寿司の味を大きく左右する決め手は「シャリ」の出来具合にあるといわれています。

 「シャリ」を作るときに用いられるのは、「飯台」と呼ばれる木製の寿司桶です。酢飯の余分な水分が木肌に吸われるので、酢飯がベタベタし」ません。炊き上がった熱々のご飯を飯台に移し、合わせ酢を加えて、しゃもじで切るように手早く混ぜ合わせます。これを「シャリ切り」といいます。手早く切らないと酢飯に粘りが出て、団子になってしまいます。ちなみに、しゃもじのことを寿司職人は「宮島」と呼びます。もちろん安芸の宮島の伝統工芸品に因んでいます。

 十分にご飯が酢に馴染んだら、団扇であおいで酢飯を冷まします。あおぐことで余分な酢が気化して風味が円やかになり、酢飯の表面にツヤツヤとした輝きが生まれます。これを寿司職人は「銀シャリ」と呼びます。握り寿司でも、ちらし寿司でも、巻き寿司でも美味しい寿司料理を作ることができるのは「銀シャリ」のおかでです。

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